Drama
21 to 35 years old
2000 to 5000 words
Japanese
カーテンの隙間から漏れる光が、ひどく目に痛かった。僕はベッドの中で丸まり、腹部の鈍痛に顔をしかめた。ここは何処だって?ああ、死後の世界か。もう八年も、ここに引き籠もっている。
僕はショウ。死んだ人間だ。少なくとも、死後の『療養所』ではそう呼ばれている。死んだら楽になるって誰が言ったんだ?冗談じゃない。ここは、生きている時と変わらない苦しみがある。
転生することも許されず、現世とほとんど変わらない景色が広がる療養所。規則正しい生活、栄養満点の食事、そして心のケア。至れり尽くせり…なのに、僕は一向に幸せになれない。むしろ、生きている時よりも孤独感が増している。
きっかけは、とある出来事。正確には、長年の死因不明の体調不良。頭痛、腹痛、軽い下痢。いつも、何かしらの不調を訴えて、僕は療養所の自室に閉じこもっていた。
人と関わるのが嫌だった。 आशा है, これまでにも何度か試したことがあるけど、どうしても上手くいかない。僕の心は、閉ざされたままだ。
そんな毎日の中、小さな変化が訪れたのは、庭で受容という名の花を育てている女性、成香との出会いだった。
ある雨の日、僕はいつものように窓から外を眺めていた。降り続ける雨は、僕の心を映し出しているようだった。すると、傘もささずに雨に打たれている女性が目に入った。それが成香だった。
意を決して、僕は声をかけた。「あの…傘、さしませんか?」
成香は顔を上げ、優しく微笑んだ。「大丈夫。雨、好きなんです」
それが、僕と成香の最初の会話だった。その日から、僕は少しずつ、彼女と話すようになった。彼女はいつも、僕の愚痴を聞いてくれた。僕の過去、苦しみ、そして、死への恐怖。
「死後の世界にも苦しみがあるなんて、思いませんでした」僕はそう呟いた。
成香は首を横に振った。「生きている世界も、死後の世界も、苦しみは同じ。ただ、苦しみの種類が違うだけ」
彼女の言葉は、僕の心に深く響いた。僕は、生きている時と同じように、苦しみから逃げていたんだ。 死んだからって、全てが変わるわけじゃない。
ある日、成香は僕に言った。「ショウさん、あなた、まだ自分が死んだことを受け入れていないんじゃない?」
ドキッとした。図星だったからだ。僕は、自分の死を、まるで他人事のように捉えていた。それは、現実逃避だったのかもしれない。
「どうすれば…受け入れられるんですか?」僕は弱々しく尋ねた。
成香は静かに言った。「自分の死因を思い出すこと。それを受け入れることが、始まりよ」
自分の死因…。それは、僕にとって最も触れたくない記憶だった。封印したはずの過去が、ゆっくりと蘇り始める。
妻からの、長年にわたる虐待…。暴力的な言葉、無視、そして経済的な束縛。僕は、まるで人形のように、操り人形のように、妻の言いなりだった。
彼女は僕を愛していたのだろうか?わからない。ただ、僕の存在が、彼女の重荷になっていたことは確かだ。そして僕は、その重荷から解放されるために、愚かな選択をしてしまった。
過去を思い出すたびに、激しい罪悪感に苛まれた。息子…。僕は、息子を置いて逝ってしまったのだ。彼はいま、どうしているだろうか?元気だろうか?寂しい思いをしていないだろうか?
成香は、僕の苦しみを受け止めてくれた。僕が泣き崩れるたびに、そっと寄り添ってくれた。
「大丈夫。あなたは一人じゃない。私も、ここにいる。あなたの苦しみ、全部受け止める」
成香の言葉は、僕の心を少しずつ癒していった。僕は、彼女のおかげで、少しずつ前を向けるようになった。8年間、一歩も外に出なかった部屋から、庭に出るようになった。太陽の光を浴びるのが、久しぶりだった。
ある日、療養所の医師が僕に言った。「ショウさん、ずいぶん顔色が良くなりましたね。体調も、もう大丈夫でしょう」
僕は頷いた。「はい。もう、体調不良は言い訳にはできません」
医師は微笑んだ。「それは良かった。さあ、これからは療養所の行事にも参加してくださいね」
療養所の行事…。最初は気が進まなかったが、成香に誘われて参加してみることにした。そこには、様々な境遇の死者が集まっていた。過去の栄光を忘れられない人、未練を残して逝った人、そして、僕のように罪悪感を抱えて生きている人…。
彼らとの交流を通して、僕は自分が一人ではないことに気づいた。みんな、それぞれに苦しみを抱えながら、死後の世界を生きていたのだ。
僕は、少しずつ自分の過去を受け入れ始めた。虐待されて苦しかったこと、逃げ出したかったこと、そして、息子を愛していたこと…。
ある日のこと。成香は真剣な顔で僕に言った。「ショウさん、そろそろ現実世界を見てみませんか?」
「あなたの息子さん…大きくなりましたよ。あなたがいなくなった後も、立派に成長しています」
息子…。僕は、息子の姿を見たくなった。しかし、同時に恐怖もあった。もし、僕の死が、息子の人生を狂わせていたら?もし、息子が僕のことを恨んでいるなら?
それでも、僕は意を決して、成香と共に現実世界を覗き見ることにした。そこにいたのは、すっかり大人になった息子の姿だった。彼は、大学に通いながらアルバイトをして、懸命に生きていた。
息子は、時々、空を見上げていた。まるで、誰かに語りかけるように。僕は、それが僕に向けられた視線だと感じた。
しかし、次の瞬間、僕は信じられない光景を目にした。息子が、ビルの屋上から身を乗り出そうとしていたのだ。
「危ない!」僕は叫んだ。しかし、僕の声は、現実世界には届かない。 死後の世界の僕の声は、ただの空気に溶けていく。
「ダメだ!死ぬな!生きろ!」僕は渾身の力で叫んだ。 그 다음 순간에…奇跡が起こった。
息子の足が、止まったのだ。彼は、何か聞こえたような気がしたのか、首を傾げ、ゆっくりと後ろを振り返った。しかし、そこには誰もいなかった。
息子は、深呼吸をすると、おぼつかない足取りで屋上から離れた。僕は、安堵のため息をついた。 死後の世界から、息子に何かを伝えることができたのだ。
「ありがとう…」僕は小さく呟いた。それは、成香に向けられた感謝の言葉だった。そして、同時に、生きている全ての人々へのエールだった。
八年目の雨上がりの日、僕はようやく、自分の死を受け入れることができた。そして、未来へと、一歩を踏み出した。
これからは、療養所で暮らす他の死者たちの力になりたい。彼らの苦しみに寄り添い、希望を与える存在になりたい。僕もまた、誰かの希望になれると信じて。
僕の物語は、まだ始まったばかりだ。永遠の療養所で、僕は君を待っている。