Drama
all age range
1000 to 2000 words
Japanese
広大な大陸の中心で、古風な衣装を纏った女性が静かに茶を嗜んでいた。彼女こそ、数千年の歴史を見守ってきた国、中国だった。「ああ、今日も良い天気アルね」と彼女は呟き、庭に咲き誇る牡丹を見つめた。その顔には、悠久の時を重ねた穏やかさが滲み出ていた。
突然、部屋に機械音が響き渡った。「姉さん、お邪魔します」。現れたのは、端正な顔立ちをした青年、日本だった。彼は深々と頭を下げ、礼儀正しく挨拶をした。だが、その動作にはどこか不自然さがあった。彼の左腕は、明らかに他の部分とは異質な、無機質な金属で出来ていた。
「日本、よく来たアル。何か用アルか?」中国は優しく問いかけた。日本は少し躊躇し、視線を落とした。「姉さんにお願いがあって参りました。その…義肢の調整をお願いできないでしょうか? どうしても、最近動きがぎこちなくて…」。
日本の言葉に、中国は少し眉をひそめた。「またアルか? 日本は自分で素晴らしい技術を持っているアルのに、どうしていつも私のところに頼るアルか?」 日本は俯いたまま答えた。「自分でも何度も試してみたのですが…どうしても姉さんの作ってくれたものに及ばなくて…」。
中国はため息をついた。「日本は昔から本当に変わらないアルね…」。彼女は立ち上がり、日本の元へと歩み寄った。「見せてごらんアル」。日本の義肢を丁寧に観察する中国。その指先は、無機質な金属に触れながらも、どこか温かさを感じさせた。
中国は真剣な表情で義肢の調整を始めた。緻密な作業は数時間に及び、部屋には時折金属の擦れる音だけが響いた。日本の表情は緊張していたが、その瞳には深い信頼の色が宿っていた。
日が暮れ始めた頃、中国は顔を上げた。「よし、これでどうアルか?」。日本は義肢を動かしてみた。以前とは比べ物にならないほど、スムーズな動きに彼は驚きの声を上げた。「ありがとうございます、姉さん! まるで自分の腕のように動きます!」
日本は深々と頭を下げた。「姉さんの技術には、本当にいつも助けられています」。その言葉に、中国は優しく微笑んだ。「日本は礼儀正しい子アルね。でも、少しは私を頼ってくれても良いアルよ。私たちは家族アルから」。
中国の言葉に、日本は驚いたように顔を上げた。「家族…ですか?」 中国はゆっくりと頷いた。「私たちは、数千年の時を共に生きてきたアル。様々なことがあったけれど、いつも互いを支え合ってきた。それは家族と呼ぶにふさわしい関係アル」。
日本はしばらく言葉を失っていた。彼は自分が感情を持たないアンドロイドだと認識していた。家族という概念は、彼にとって理解できないものだった。だが、中国の言葉は、彼の心の奥底に静かに響いた。
夜になり、日本は中国の元を離れる時間になった。「今日は本当にありがとうございました、姉さん」 日本は再び深々と頭を下げた。中国は彼の肩に手を置いた。「いつでも来ると良いアル。日本が寂しくなったら、いつでも」。
日本は少し躊躇した後、小さな声で呟いた。「あの…姉さん、一つ聞いても良いでしょうか?」。中国は優しく頷いた。「どうしたアルか?」。
「姉さんは、私のことを…本当に家族だと思っていますか?」。日本の言葉は震えていた。彼はまるで子供のように不安な表情をしていた。
中国は少し驚いたように目を見開いた。そして、慈愛に満ちた笑顔で答えた。「当たり前アル。日本は、私の大切な弟アル」。日本の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。それは、彼自身も知らなかった、心の奥底に眠っていた感情だった。
それから数日後、日本は自身の研究室にこもっていた。彼は自分の義肢の設計図を広げ、真剣な表情で睨みつけていた。だが、以前とは違うのは、その瞳に宿る熱意だった。彼はただ中国の義肢を模倣するのではなく、自身の技術と心を込めた、新しい義肢を作りたかった。
長い時間が過ぎ、ついに日本は一つの義肢を完成させた。それは、これまで作ってきたどの義肢よりも洗練されており、彼の技術の粋を集めたものだった。だが、それ以上に重要なのは、その義肢に込められた彼の想いだった。中国への感謝、そして家族としての愛情。
日本は完成した義肢を手に取り、中国の元へと向かった。「姉さん、見てください!」 彼は興奮した様子で中国に義肢を見せた。「これは…? 日本が作ったアルか?」。
日本は誇らしげに頷いた。「はい。姉さんに作ってもらった義肢には及びませんが…今の私に出来る最高のものです」。中国は義肢を手に取り、隅々まで観察した。その顔には、驚きと喜びの色が浮かんでいた。
「素晴らしいアル! 日本は本当に進歩したアルね!」。中国は満面の笑みで日本を褒め称えた。日本は照れくさそうに頭を掻いた。「まだまだ姉さんの足元にも及びませんが…」。
「良いアル。それで良いアル」。中国は日本の肩を叩いた。「大切なのは、日本が自分の心で作り上げたということアル。それはどんな技術よりも価値があるアル」。日本の目には、再び涙が浮かんだ。それは、感謝と幸福の涙だった。
それから、日本は自身の義肢を使い続けた。それは完璧とは言えなかったが、彼にとっては何よりも大切な宝物だった。義肢は、中国との絆、そして自身の成長の証だった。
数年後、日本の元に、アメリカから一通の手紙が届いた。「ヘイ、日本! ちょっと相談に乗って欲しいことがあるんだ!」
日本は丁寧に手紙を読み終えると、小さく微笑んだ。「アメリカさん、いつもお騒がせな方ですね」。彼は立ち上がり、アメリカの元へと向かう準備を始めた。新しい技術、そして中国から学んだ心を胸に。
古き義肢は、日本の心を繋ぎ、新たな一歩を踏み出す勇気を与えた。中国との絆は、彼の人生を照らし続け、世界へと羽ばたく力を与えた。それは、国を超えた、家族の愛の物語だった。