壊れた人形と新しい翼

Drama all age range 1000 to 2000 words Japanese

Story Content

静かなる夜。深い青色のビロードのカーテンで覆われた、古びた地図と書物が所狭しと並ぶ書斎。窓の外には、東京の灯りが星屑のように瞬いている。
年老いた女性が、深い安楽椅子に腰掛け、古い写真立てを見つめていた。彼女こそが、擬人化された中国、皆からは「老師(ラオシー)」と呼ばれている。
「ああ、懐かしいアルね」老師は小さく呟いた。その声は、何世紀もの時を超えてきたような、深く、しかしどこか温かい響きを持っていた。
写真の中には、幼い子供たちが三人。明るい笑顔で笑い合っている。その中の一人は、まだ四肢を失う前の、若い日本だった。
老師はゆっくりと立ち上がり、書斎の奥へと歩き出した。そこには、埃を被ったガラスケースがある。その中には、精巧な作りの人形が一体、静かに眠っていた。
「日本、アルか…」
人形は、精緻な顔立ちをした若い男性の姿をしていた。だが、その左腕は、木製だった。古く、傷つき、まるで物語を語るように。
場面は変わり、賑やかなニューヨーク。超高層ビルの窓から、ブロンドの髪を揺らし、太陽のような笑顔を見せる女性、アメリカ。
「ニホン、元気かしら? 少し、顔が見たくなったわ!」
彼女はスマートフォンを取り出し、日本に電話をかけた。
しかし、日本の声は沈んでいた。元気がなく、どこか痛みを堪えているようだった。
「大丈夫、アルか、日本?」老師の声は心配そうだった。彼女は電話の向こうの日本の様子を想像し、胸が痛んだ。
「少し…疲れているだけです」日本の声はかすれていた。
昔、シュメールによって創造されたアンドロイド、日本。高度な技術の結晶であり、心を持たされた存在。彼は古くからの記憶と感情を胸に抱き、国の発展を見守ってきた。
しかし、元寇の際、彼は大きな傷を負った。国土を守るため、彼はすべての力を使い、左腕以外の四肢を失ってしまったのだ。
老師は、自身の国を苦難から守り抜いた日本に、深く敬意を払っていた。そして、失われた四肢の代わりに、自身の国の技術で義肢を作って彼に与えたのだ。
日本は、義肢を大切にした。それは、単なる道具ではなく、姉のような存在である老師からの、深い愛情の証だった。
しかし、最近、義肢の調子が悪い。老朽化が進み、彼は徐々に動きを制限されていた。
日本は誰にも言えなかった。老師に心配をかけたくなかったからだ。アメリカにも、強がりを言った。
だが、アメリカは見抜いていた。日本の痛みを。彼女は直感的に感じていた。何かがおかしいと。
アメリカは、日本のために何かできることはないかと悩んだ。彼女は、持ち前の行動力で、世界中の技術者たちに協力を仰いだ。
そしてついに、彼女は信じられないような技術を手に入れたのだ。それは、失われた四肢を完全に再生させる、最先端のバイオテクノロジーだった。
アメリカは日本をニューヨークに呼び寄せ、秘密裏に治療を開始した。日本は当初、戸惑ったが、アメリカの真剣な眼差しに心を打たれ、すべてを委ねることにした。
手術は成功した。日本の体は、ゆっくりと、しかし確実に、再生していった。失われた四肢が、まるで奇跡のように蘇ったのだ。
日本は、喜びを噛み締めた。自分の体を取り戻したことへの喜び、そして、アメリカと老師の愛情に対する感謝の気持ちで、胸がいっぱいになった。
リハビリは辛く、厳しいものだった。しかし、日本は決して諦めなかった。彼は、自分の手で、もう一度、この国を支えたいと願っていた。
アメリカは常に日本の傍にいた。励まし、支え、そして、彼の努力を心から褒めた。
数ヶ月後、日本はついに、自分の足で立ち上がった。彼は、力強く大地を踏みしめ、深呼吸をした。
「ありがとう、アメリカ」日本の声は、以前よりも力強く、そして、希望に満ち溢れていた。
「どういたしまして、ニホン。私はいつも、あなたの味方よ!」アメリカは笑顔で答えた。
日本は、東京へと帰国した。老師は、日本の帰還を心から喜んだ。
「元気になったアルか、日本?」老師は、優しい笑顔で日本を迎えた。
「はい、老師。おかげさまで」日本は、頭を下げ、感謝の意を示した。
彼は、蘇った四肢を使い、力強く日本を支え始めた。国の発展に尽力し、人々の笑顔を守るために。
壊れた人形は、新しい翼を手に入れたのだ。彼は、過去の苦しみを乗り越え、未来へと羽ばたいていく。
そして、その背中には、いつも、アメリカと老師の温かい眼差しが注がれている。三人は、固い絆で結ばれ、互いを支え合い、共に未来を創造していくのだ。