夕焼け色の約束

Drama all age range 500 to 1000 words Japanese

Story Content

春の風が、桜の花びらを優しく運び、小さな村をピンク色に染めていました。
その村の一角に、古い木造の小学校がありました。
子供たちの笑い声が、いつも校庭に響き渡る、活気に満ちた場所です。
小学六年生の少女、あかりは、少し内気で、絵を描くことが大好きな女の子でした。
絵を描く時だけは、まるで別人のように、想像力豊かな世界を自由に表現することができたのです。
彼女の親友は、同じクラスの少年、ゆうと。
ゆうとは、明るく活発で、誰とでもすぐに仲良くなれる、クラスの人気者でした。
ゆうとは、あかりの才能を誰よりも認めており、いつも彼女の絵を褒めていました。
「あかりの絵は、本当にすごいよ。色使いが、まるで魔法みたいだ。」
ゆうとは、屈託のない笑顔でそう言いました。
あかりは、そんなゆうとの言葉が、何よりも嬉しかったのです。
二人はいつも一緒に遊んでいました。
学校からの帰り道、秘密の場所に絵を描きに行ったり、近くの小川で水切りをしたり…。
ある日、ゆうとが深刻な顔であかりに言いました。
「引っ越すことになったんだ。」
あかりは、ゆうとの言葉に息を呑みました。
ゆうとの家族は、お父さんの仕事の都合で、遠くの街に引っ越すことになったのです。
「いつ?」
あかりは、震える声で尋ねました。
「来週…。」
ゆうとは、目を伏せて答えました。
あかりは、何も言えませんでした。
頭の中が真っ白になり、ただゆうとの顔を見つめることしかできませんでした。
二人の間には、しばらく沈黙が流れました。
夕焼けが、空を茜色に染め始めました。
「あかり…、約束してほしいんだ。」
ゆうとは、夕焼け色の空を見上げながら言いました。
「僕が大人になったら、絶対にあかりの絵を世界中の人に見てもらえるようにする。だから…、あかりは、ずっと絵を描き続けてほしい。」
あかりは、涙をこらえながら、力強く頷きました。
「うん…、約束する。」
二人は、夕焼けの下で、固く約束を交わしました。
ゆうとが引っ越して行ってから、あかりは少し寂しい日々を送っていました。
しかし、ゆうとの約束を胸に、彼女は毎日絵を描き続けました。
時が流れ、あかりは高校生になりました。
彼女の描く絵は、ますます美しく、見る人の心を捉えるようになっていました。
ある日、あかりは、地元の美術館で開催されたコンクールに作品を出品しました。
そして…、見事、最高賞を受賞したのです。
あかりの絵は、新聞やテレビでも紹介され、多くの人が彼女の才能に注目するようになりました。
そのニュースは、遠く離れた街に住む、ゆうとの耳にも届きました。
ゆうとは、すぐにインターネットで、あかりの名前を検索しました。
そして、あかりの絵を見た瞬間、彼は息を呑みました。
あの日の夕焼けの下で交わした約束…。
あかりは、ずっと約束を守り続けてくれていたのです。
ゆうとは、あかりに連絡を取りました。
久しぶりの再会。
二人は、昔と変わらない笑顔で、お互いを迎えました。
「あかり…、約束、守ってくれてありがとう。」
ゆうとは、あかりの絵を見つめながら、言いました。
「ゆうとも…、覚えていてくれて、ありがとう。」
あかりは、涙を浮かべながら、答えました。
二人は、これから、それぞれの夢に向かって、歩んでいくことを誓いました。
夕焼けは、今日もまた、二人の未来を優しく照らしていました。