Drama
14 to 20 years old
2000 to 5000 words
Japanese
涼太は、いつも現実逃避していた。勉強も、部活も、友人との付き合いも、すべてがどうでもよく感じていた。彼の心は、深い霧に覆われているかのようだった。
「またゲームか…」母親の声が聞こえる。彼はため息をつき、コントローラーを握る手を強くした。ゲームの中だけが、彼にとっての安らぎだった。現実の息苦しさから逃れられる唯一の場所。
ある夜、涼太は奇妙な夢を見た。見慣れない部屋、知らない人々。彼らは何かを必死に探し、焦燥感を抱えていた。涼太は、まるで自分が透明人間になったかのように、彼らの間をさまよった。
その時、一人の少女が涼太に気づいた。「あなたは…誰？」彼女の目は、驚きと警戒の色で輝いていた。
涼太は咄嗟に口をつぐんだ。どう説明すればいいのか分からなかった。自分が夢の中にいること、そして、なぜここにいるのかも。
少女は静かに言った。「ここは私の夢の中。あなたは…迷い込んできたのね」
少女の名前は希望だった。彼女は、自身の夢に現れた涼太に戸惑いながらも、優しく接してくれた。
希望は、自分の夢の中で起こっている奇妙な出来事に悩んでいた。最近、夢の中で大切な物が消えていくのだという。
「あなたには見える？」希望は不安そうに涼太に尋ねた。「夢の中の…歪み」
涼太は目を凝らした。すると、確かに、夢の一部が黒く染まり、ゆっくりと侵食しているのが見えた。「これは…」
希望は涼太に夢の中の仲間たちを紹介した。明るく活発な少年、物静かで聡明な少女、そして、頼りになる大人の男性。彼らは、皆、希望の夢を守るために戦っていた。
涼太は、彼らとの出会いをきっかけに、少しずつ変わっていった。最初は戸惑っていたが、希望や仲間たちと過ごすうちに、現実世界では感じることのできなかった温かさを知った。
しかし、夢の歪みは日ごとに大きくなっていった。希望の夢は崩壊の危機に瀕していた。
ある日、歪みの中に吸い込まれそうになった希望を、涼太は身を挺して助けた。その瞬間、彼は強烈な痛みに襲われた。
目を覚ますと、そこは自分の部屋だった。夢の出来事が、まるで昨日のことのように鮮明に思い出された。
涼太は、初めて自分の現実世界に戻ってきたことに安堵した。しかし、希望のことが頭から離れなかった。
彼女を助けたい。夢の中の仲間たちを守りたい。そう強く思った。
涼太は、インターネットで夢に関する情報を調べ始めた。夢遊病、明晰夢、そして…夢への介入。
彼は、自分が希望の夢に介入してしまったことで、夢のバランスを崩してしまったのではないかと考えた。
そして、夢の中で起きた歪みは、希望自身の心の闇の現れなのではないかという結論に至った。
涼太は、再び希望の夢に入る方法を探し続けた。数日後、彼は明晰夢を見るための方法を見つけた。瞑想、夢日記、そして…現実吟味。
何度も失敗を繰り返しながら、涼太はついに明晰夢を見ることに成功した。
再び希望の夢に足を踏み入れた涼太は、歪みがさらに広がっていることに愕然とした。希望の夢は、今にも崩壊しそうだった。
「涼太…！どうしてここに…！」希望は驚きと喜びの表情で涼太を迎えた。
「希望を助けに来たんだ」涼太は決意を込めて言った。「夢を救うために」
涼太と希望、そして仲間たちは、協力して歪みの原因を探し始めた。手がかりは、歪みが発生した場所に残されていた、希望の心の奥底にある記憶の断片。
記憶の断片を辿るうちに、彼らは希望が幼い頃に経験した悲しい出来事に辿り着いた。希望は、幼い頃に両親を事故で亡くし、深い悲しみを抱えて生きてきたのだ。
その悲しみは、いつしか希望の心に大きな闇を作り出し、夢を歪ませていた。
「もう大丈夫だ」涼太は希望を抱きしめた。「一人で抱え込まなくてもいいんだ。僕たち仲間がいる」
涼太の言葉に、希望の目から涙が溢れた。その涙は、歪みを浄化し、夢に光を取り戻していった。
歪みが消え去ると、希望の夢は再び美しい世界を取り戻した。希望の表情も、以前よりもずっと明るくなった。
しかし、問題はまだ残っていた。涼太が希望の夢の中にいる限り、いつかまた同じことが起こるかもしれない。
涼太は、希望に現実世界に戻ることを勧めた。「現実世界で、新しい希望を見つけてほしいんだ」
希望は悩んだ。しかし、涼太の真剣な表情を見て、決心した。「分かった…現実に戻るわ」
希望は、涼太に感謝の言葉を伝えた。「ありがとう…涼太。あなたのおかげで、私は変わることができた」
涼太は、希望を見送った後、自分の部屋で目を覚ました。夢から覚めた後も、彼の心は温かい希望で満たされていた。
彼は、ゲームコントローラーをそっと置いた。そして、窓の外を見上げた。今まで気づかなかった、眩しい朝日が目に飛び込んできた。
彼は、深呼吸をした。そして、ゆっくりと歩き出した。新しい現実の世界へ。
学校へ向かう途中、彼は友人に会った。彼は、今まで避けてきた友人たちに、勇気を出して話しかけた。「おはよう」
友人たちは驚いた顔をしたが、笑顔で答えた。「おはよう、涼太！」
涼太は、現実世界でも仲間たちと笑い合い、支え合いながら生きていくことを決めた。希望を胸に抱いて。
彼は、自分の夢を叶えるために、もう一度勉強を始めた。諦めかけていた未来に、もう一度希望の光を灯したのだ。
そして、彼は希望の夢の中で出会った人々のことを、決して忘れることはなかった。彼らとの絆は、彼の心の中で永遠に輝き続けるだろう。
彼は、現実世界で希望を見つけたのだ。自分の手で、自分の未来を切り開いていくことを決意した。
彼の人生は、夢の欠片と現実の光によって、彩られていく。それは、彼にとって最高の物語の始まりだった。
そして、彼は気づいた。たとえ現実逃避をしたとしても、最終的に向き合わなければならないのは、自分の心なのだと。そして、その心の中にこそ、本当の希望が隠されているのだと。