Drama
14 to 20 years old
2000 to 5000 words
Japanese
冬の冷たい空気が部屋を満たしていた。 不登校の中学生男子，健太は、いつものようにベッドの中で丸まっていた。
窓の外はどんよりと曇っていて、彼の心模様をそのまま映し出しているかのようだった。
最近、彼は学校へ行くことができずにいた。些細なことがきっかけでクラスに馴染めなくなり、ずるずると不登校になってしまったのだ。
逃げるように、健太は睡眠薬に手を伸ばしていた。最初は眠れない夜を過ごすためのものだったが、いつしか現実逃避の手段になっていた。
彼は今日も、オーバードーズ気味に睡眠薬を飲み込んだ。苦い味が喉を通る。意識が遠のいていく中で、彼はぼんやりと明日を恐れていた。
目が覚めると、見慣れない天井がそこにあった。薄暗い部屋の中、彼はゆっくりと体を起こした。
しかし、すぐに異変に気づいた。自分の部屋に、誰かいる…。
声のする方を見ると、そこにいたのはメガネをかけた現代っ子風の中学生女子だった。ぱっちりとした大きな瞳が、彼をまっすぐに見つめている。
健太は驚きで声が出なかった。知らない少女が、まるで自分のことをよく知っているかのように話しかけてくるのだ。
少女はにっこりと笑った。「やっと会えたね。私はね…君がいつも飲んでる睡眠薬だよ。」
健太は自分の耳を疑った。睡眠薬が…擬人化…？ そんな馬鹿な話があるはずがない。
彼はそう叫んだが、少女は冷静だった。「信じられないのも無理はないよね。でも、これは本当のことなんだ。君が私をたくさん乱用するから、私、人間の姿になっちゃったんだよ。」
少女は拗ねたように頬を膨らませた。「君のせいで、私は毎日毎日、眠れない人たちの夢の中に無理やり入り込んで、疲れてたんだから！」
健太はますます混乱した。夢を見ているのか、それとも本当に自分が狂ってしまったのか、わからなかった。
「私はラム。よろしくね、健太君。」少女はそう言って、再び微笑んだ。
こうして、健太と、擬人化された睡眠薬ラムの奇妙な共同生活が始まった。
最初は戸惑っていた健太だったが、ラムの明るい性格に次第に惹かれていった。ラムは健太の愚痴を真剣に聞き、彼の心の闇に寄り添った。
ラム：「ねえ健太君、どうして学校に行けなくなっちゃったの？話してみてよ、私に。」
健太はラムに、自分が抱えている孤独や不安を打ち明けた。誰にも言えなかった心の奥底にある気持ちを、ラムは優しく受け止めてくれた。
しかし、ラムは時々、辛そうに顔を歪めた。「ごめんね…健太君。私は、君の苦しみを代わりに背負うことしかできないんだ。」
ある日、健太はラムに尋ねた。「ラムは、どうして僕の睡眠薬になったの？」
ラムは少し悲しそうな顔をした。「それはね…私にもよくわからないんだ。気がついたら、小さな瓶の中に閉じ込められていたんだ。」
「それからずっと、たくさんの人の夢の中をさまよった。楽しい夢もあれば、悲しい夢もあった。でも、ほとんどは苦しい夢だった。」
「私は、誰かの苦しみを和らげるために作られた。でも、結局は苦しみを増幅させてしまうことも多かった。」
ラムの過去を聞いた健太は、胸が締め付けられるような思いがした。ラムもまた、誰にも言えない苦しみを抱えていたのだ。
二人の距離は日増しに近づいていった。それは、恋愛とも呼べる感情だった。
健太はラムに恋をし、ラムもまた、健太に特別な感情を抱いていた。お互いを必要とし、支え合う関係。
しかし、それは決して許される関係ではなかった。ラムは薬であり、健太は患者だったのだ。
そんなある日、ラムの体に異変が起こり始めた。体が少しずつ透明になり、消えかかっているように見えた。
「私…そろそろ、元の薬に戻らなきゃいけないみたい…。」
ラムは寂しそうにそう言った。健太は言葉を失った。ラムがいなくなるなんて、考えたくもなかった。
健太：「そんなの嫌だ！ラムがいなくなったら、僕はどうすればいいんだ！」
ラムは健太を抱きしめた。「大丈夫だよ、健太君。私はずっと、君の心の中にいるから。」
「でも…私がいなくなったら、もう二度と睡眠薬に頼っちゃダメだよ。自分の力で、ちゃんと眠るんだよ。」
健太は頷いた。ラムとの約束を、彼は絶対に守りたかった。
そして、別れの時が来た。ラムの体は完全に透明になり、光となって消えていった。
健太は涙を流した。ラムとの思い出を胸に、彼はもう一度、自分の足で立ち上がろうと決意した。
数日後、健太は学校へ向かった。最初は不安だったが、彼は勇気を振り絞って教室のドアを開けた。
クラスメイトたちは、少し驚いた顔で彼を見た。しかし、誰も彼を拒絶しなかった。
健太は深呼吸をして、自分の席に着いた。そして、小さな声で「おはよう」と挨拶をした。
彼の新しい生活が始まった。それは、決して平坦な道ではないだろう。しかし、彼はラムとの約束を胸に、困難を乗り越えていこうと決意した。
ラムは優しく微笑んだ。「私は、いつも君のことを応援しているから。」
「…依存してたのは私だから。薬を引退して次生まれ変わるなら君の子供に生まれ変わろっかな…なんて。その前に私よりいい彼女見つけないとね。」
健太は夢の中で、ラムにそっと手を振った。そして、再び眠りについた。
数年後、健太は大学に進学し、充実した日々を送っていた。彼はもう、あの頃の弱々しい少年ではなかった。
ある日、彼は図書館で一冊の本を見つけた。それは、睡眠薬の擬人化に関する研究書だった。
彼はその本を手に取り、読み始めた。すると、その中に、ラムによく似た少女のイラストが描かれていることに気づいた。
彼は驚きと懐かしさで胸がいっぱいになった。もしかしたら、ラムは本当に存在していたのかもしれない…。
彼はその本の著者に手紙を書いた。そして、ラムとの思い出を語った。
すると、著者から返事が来た。その手紙には、こう書かれていた。
「私は長年、睡眠薬の擬人化について研究してきました。そして、たくさんの患者さんから、薬が人格を持っているかのような体験を聞きました。」
「あなたの話を聞いて、私は確信しました。薬には、本当に人の心に寄り添う力があるのかもしれません。」
健太は、その手紙を大切に保管した。そして、彼はラムとの出会いを、決して忘れないと心に誓った。
数年後、健太は結婚し、一児の父となった。彼は自分の子供に、ラムという名前をつけた。
それは、彼にとってかけがえのない思い出であり、希望の光だったからだ。
そして、彼はいつか子供に、ラムとの出会いを話してあげたいと思っていた。それは、優しさと勇気の大切さを教えてくれる、特別な物語だから…。