Drama
14 to 20 years old
2000 to 5000 words
Japanese
目覚めた時、見慣れない天井が広がっていた。 不登校になってから、昼夜逆転の生活を送っている高校生の僕は、またしても 睡眠薬 を飲んで眠ってしまったらしい。重い体を起こし、ふと隣を見ると、そこにいたのは見覚えのない、眼鏡をかけた現代風の女子中学生だった。
震える声で問いかける僕に、彼女は信じられない言葉を告げた。「やっと 人間 になれた!もうあんたの 愚痴 に付き合わされるのはごめんだからね!」
頭の中が真っ白になった。意味が分からない。 彼女は続ける。「そうよ、私が 擬人化 された 睡眠薬 だもん。あんたが毎日毎日 乱用 してた、その 睡眠薬 よ!」
冗談だと思った。信じられるわけがない。しかし、目の前の少女はあまりにも現実味を帯びていた。服装も、話し方も、そして僕に対する敵意さえも。
混乱の中、僕はその日以来、彼女――便宜上「スイ」と呼ぶことにした――との奇妙な共同生活を送ることになった。 スイは 人間 になった喜びを爆発させ、毎日街へ繰り出しては、ショッピングやカフェ巡りを楽しんだ。
一方の僕は、スイがいなくなったせいで、以前にも増して 不眠 に悩まされるようになった。 オーバードーズ はもう二度としたくない。けれど、眠れない夜は想像以上に辛かった。
スイはそんな僕を見て、時々申し訳なさそうな顔をした。「だって、せっかく 人間 になれたんだもん。遊びたいじゃない」
ある日、スイは深刻な顔で僕に話しかけてきた。「ねえ、私、自分の過去について知りたいの。私がどうして 薬 になったのか、 人間 になる前のこと、全部」
僕たちはスイの過去を辿る旅に出ることにした。 薬 の製造会社を訪ね、文献を調べ、そして何よりも、スイ自身の記憶を辿った。 その過程で、スイがただの 薬 ではなく、一人の少女の魂が込められていることを知った。
スイは昔、病弱で学校に通えなかった少女だった。孤独と不安に押しつぶされそうになる毎日の中で、彼女は夢を見ることを唯一の希望としていた。しかし、その夢すらも 薬 によって奪われてしまったのだ。
「私は、夢を見たかった。でも、 薬 は私から夢を見る力を奪った」
スイの言葉は、僕の胸に深く突き刺さった。 僕自身もまた、 不登校 という現実から逃避するために、 薬 に頼っていたのだから。
旅を続けるうちに、僕とスイの関係は少しずつ変化していった。 最初は 薬 と 依存 者という関係だった僕たちは、次第に 友達 、そして 恋 人へと変わっていった。
スイは、僕の心の闇を理解し、受け止めてくれた。 僕もまた、スイの過去の痛みを知り、寄り添いたいと願った。
しかし、 永遠 に続く 幸福 などありえない。 ある日、スイの体に異変が起きた。徐々に体が 薬 の成分に戻り始め、 人間 の姿を維持することが困難になってきたのだ。
スイは悲しそうな目で僕を見つめた。 僕には、彼女を救う 方法 が何もなかった。
そして、別れの時が来た。 スイは、自分が元の 薬 に戻ることを受け入れた。
「依存 してたのは私だから。 薬 を 引退 して、次生まれ変わるなら君の子供に生まれ変わろっかな…、なんて。その前に、私よりいい彼女見つけないとね」
スイは 笑顔 でそう言い残し、光となって消えていった。
スイがいなくなった世界は、以前よりも少しだけ優しく感じられた。 僕は、スイとの出会いを胸に、 不登校 の自分と向き合い、少しずつ 未来 へと歩み始めた。
数年後、僕は 大学生 になり、 心理学 を専攻していた。 スイの過去を知ったことで、人の心の痛みについて深く考えるようになったからだ。
ある日、 大学 の構内で、スイにそっくりの女の子を見かけた。 しかし、彼女は僕のことを全く覚えていないようだった。
僕は、声をかけるのをやめた。 スイが、 新しい人生 を歩んでいるのなら、それを邪魔したくなかったからだ。
ただ、心の中でそっと囁いた。「ありがとう、スイ。 君との出会いは、僕の人生を大きく変えたよ」
僕は、スイとの記憶を胸に、これからも 自分自身 と向き合いながら、 未来 へと歩んでいくだろう。 スイがいつか、 幸せ な 人生 を送れることを信じて。