Drama
14 to 20 years old
2000 to 5000 words
Japanese
舞台は、昼間の光がほとんど入らない、カーテンが閉め切られた部屋。置かれているのは、埃を被った参考書とゲーム機、そして散らかったスナック菓子の袋だけ。
そこに横たわっているのは、蒼白く痩せこけた少年、健太だ。彼は、天井を見つめながら、ぼんやりと時間をやり過ごしている。
「また、学校に行けなかった…」健太は小さく呟いた。 不登校になってから、もう半年が過ぎた。
学校でのいじめ、勉強についていけない焦燥感。それらが重なり、健太の心は疲弊しきっていた。
唯一の逃げ場は、インターネットの世界。そこで彼は、自分の苦しみを紛らわすために、睡眠薬を手に入れた。
最初は寝つきを良くするためだった。しかし、次第にその量は増えていった。
健太は、机の上に置かれた大量の錠剤を見つめた。それは、彼の絶望を象徴するかのようだった。
そして、彼は迷うことなく、その錠剤を口に運び始めた。
意識が遠のいていく中、健太はかすかに笑った気がした。
次に健太が目を覚ますと、目の前に見慣れない少女が立っていた。
彼女は、黒縁のメガネをかけ、少し戸惑ったような表情を浮かべている。
少女は、少し間を置いてから答えた。「私は、あなたの睡眠薬。あなたが飲んでいた薬よ」
健太は、状況が理解できなかった。「…薬が、人間になったって言うのか？ 擬人化…？」
「まあ、そういうことになるわね。あなたはオーバードーズして、ちょっと特別な状態になっているの。それで、私があなたの意識の中に現れたってわけ」
少女は落ち着いた口調で説明した。彼女の名前は、スリープ。健太が飲んでいた睡眠薬を擬人化した存在だった。
スリープは、健太の心の奥底にある孤独や苦しみを理解していた。そして、健太に寄り添い、彼の心の傷を癒そうと努めた。
最初は戸惑っていた健太も、次第にスリープに心を開いていった。
スリープは、健太に学校へ行くことだけが全てではないことを教え、自分の好きなことを見つけるように促した。
ある日、健太はスリープに「…ありがとう」と感謝の言葉を口にした。
スリープは微笑んだ。「どういたしまして。でも、私はあなたに依存して欲しくないの。自分の足で立って、生きて欲しい」
健太は、スリープとの出会いを通じて、自分の生き方を見つめ直すようになった。
しかし、スリープとの関係は、決して平坦なものではなかった。
健太がスリープに依存しすぎると、スリープは次第に苦しみ始める。それは、彼女が薬としての役割を失い、ただの存在になりたいと願うからだった。
「…私は、あなたを助けたい。でも、あなたの睡眠薬としてしか存在できないのは、辛いの…」スリープは涙ながらに訴えた。
健太は、スリープの苦しむ姿を見て、初めて自分の行動が彼女を傷つけていることに気づいた。
スリープは、悲しそうな表情を浮かべながらも、微笑んだ。「さよなら、健太。あなたの幸せを願っているわ」
スリープの姿が薄れていく中、健太は心に誓った。「もう、睡眠薬に頼らない。自分の力で生きていく」
彼は、近所の公園を散歩した。そこには、楽しそうに遊ぶ子供たちの姿があった。
健太は、子供たちの笑顔を見て、心が温かくなるのを感じた。
そして、彼は、自分の好きなことを見つけようと、色々なことに挑戦し始めた。
絵を描いたり、音楽を聴いたり、プログラミングを勉強したり。
最初は上手くいかないことばかりだったが、諦めずに努力を続けた。
やがて、彼はプログラミングに才能があることに気づく。
彼は、独学でプログラミングのスキルを磨き、インターネットを通じて仕事を得ることに成功した。
それから数年後、健太は恋愛をした。彼女は、彼が不登校だった過去も、睡眠薬に依存していた過去も、全て受け入れてくれた。
彼は、彼女と出会い、過去の自分を乗り越え、新たな人生を歩み始めた。
健太は、かつての自分と同じように苦しんでいる人たちを助けたいと考えるようになった。
彼は、自分の経験を活かし、不登校や薬物依存に苦しむ若者たちのための相談窓口を設立した。
健太の活動は、多くのメディアに取り上げられ、彼は一躍時の人となった。
彼は、スリープとの出会いを決して忘れることはなかった。
彼女は、健太に生きる意味を与えてくれた、かけがえのない存在だったからだ。
「スリープ、ありがとう。私は、あなたの分まで、精一杯生きるよ」
健太は、過去の苦しみを乗り越え、自分の人生を輝かせることができた。
そして、彼は、多くの人々に勇気と希望を与え続けるだろう。
それは、まるで夢のような、でも確かにあった、少年と薬の擬人化された少女の、奇妙な物語だった。
（注：この物語はフィクションであり、薬物の乱用を助長するものではありません。薬物に関する問題は、専門機関にご相談ください。）