Drama
14 to 20 years old
2000 to 5000 words
Japanese
夜の帳が下り、部屋は重苦しい静寂に包まれていた。窓の外では、遠くの車の音がかすかに聞こえるだけ。ベッドに横たわる少年、ユウキは、不登校になってからというもの、昼夜逆転の生活を送っていた。
今日もまた、眠れない夜が始まる。不安と焦燥が胸を締め付け、ユウキは引き出しから小さな錠剤の瓶を取り出した。それは睡眠薬だった。医師から処方されたものだが、ユウキは規定量を超えて乱用していた。
ユウキは何度も自分に言い聞かせ、大量の錠剤を口に放り込んだ。水でそれを飲み込むと、意識は急速に遠のいていった。これは、彼にとって日常の一コマだった。
翌朝、ユウキは異様な感覚に襲われて目を覚ました。見慣れない天井、嗅いだことのない花の香り。そして何よりも、隣に誰かがいる。
驚いて体を起こすと、そこにいたのはメガネをかけた、今時の女子中学生だった。ピンク色のパーカーを着て、ユウキを不思議そうに見つめている。
ユウキが戸惑いを隠せないでいると、少女は得意げに言った。「やっと会えたね!あたしは、キミがいつもオーバードーズしてた、お薬だよ!」
ユウキは混乱した。目の前の少女が、自分が乱用していた睡眠薬だというのか?まるで擬人化されたみたいに。
「バカじゃないよ!キミが飲みすぎたせいで、ちょっとしたエラーが起きただけ。でも、おかげでこうして会えたんだから、感謝してよね!」
少女は、自分がユウキが使っていた睡眠薬の擬人化だと主張し、名前はレムだと名乗った。最初は信じられなかったユウキだが、レムの奇妙な振る舞いや、薬に関する異様な知識から、徐々に彼女が本当に睡眠薬であると認めるようになっていった。
「ねぇ、ユウキはさ、なんでいつもあたしをそんなにたくさん飲むの?」
レムは率直に問いかけた。彼女の言葉には、責めるようなニュアンスは含まれていなかった。ただ、純粋な疑問がそこにあった。
ユウキは視線をそらした。「…学校に行けないし、何もかも嫌になっちゃって…眠ることだけが、唯一の逃げ道だったんだ。」
レムは静かにユウキの話を聞いていた。彼女にとって、ユウキの感情は初めて触れるものだった。今まで、彼女はただの睡眠薬として、人々の苦痛を和らげるだけの存在だったのだから。
それからというもの、ユウキとレムは奇妙な共同生活を送ることになった。レムは人間になった喜びを爆発させ、ユウキに様々な要求を突き付けた。流行のスイーツを食べたい、ショッピングに行きたい、カラオケで歌いたい…。
最初はうんざりしていたユウキも、レムの無邪気な笑顔を見ているうちに、少しずつ心を開いていった。レムとの時間は、ユウキにとって久しぶりに感じる楽しい時間だった。
ある日、レムはふと、自分の過去について語り始めた。「あたしが作られた場所…そこは、とても静かで、冷たい場所だった。たくさんの兄弟たちがいて、みんな同じように、誰かの眠りを助けるために生まれてきた。」
「でもね、あたしは、他の兄弟たちとは少し違っていたんだ。いつも、誰かの感情を知りたいと思っていた。痛み、悲しみ、喜び…それを、自分の目で見てみたかった。」
ユウキはレムの話に心を奪われた。彼女の言葉には、孤独と切望が入り混じっていた。自分と同じように、レムもまた、何かを求めていたのだ。
レムとの交流を通じて、ユウキの心境にも変化が訪れていた。彼は、自分の抱える問題に正面から向き合おうと決意したのだ。カウンセリングを受けたり、少しずつ学校に通い始めたり…。
しかし、そんな幸せな時間は長くは続かなかった。レムの身体は、徐々に薬としての性質を失い始めていた。彼女は、人間として存在するために、ユウキの精神エネルギーを必要としていたのだ。
「ユウキ…あたし、だんだん消えちゃうかもしれない…」
レムは悲しそうに告げた。ユウキは必死に彼女を抱きしめた。「そんなこと、絶対にさせない!何か方法があるはずだ!」
ユウキは図書館で、薬に関する文献を読み漁った。そしてついに、一つの可能性を見つけた。睡眠薬のオーバードーズが引き起こした奇跡ならば、再びオーバードーズをすれば、レムを元の薬に戻せるかもしれない。
しかし、それはユウキにとって、再び依存の淵に足を踏み入れることを意味していた。葛藤の末、彼は一つの結論に達した。「レムを助けるためには、自分も変わらなければならない。」
ユウキはレムに、自分が過去にオーバードーズを繰り返していたことを告白した。レムはショックを受けた。「そんなこと、知らなかった…どうして言ってくれなかったの?」
「…言えなかったんだ。君を失うのが怖かったから。」
ユウキは勇気を振り絞って、自分の過去と向き合い、レムと共に未来を歩むことを誓った。彼はレムを助けるために、そして自分のために、再び睡眠薬に頼ることを止める決意をしたのだ。
二人は一緒に、オーバードーズの原因となったトラウマと向き合い、専門家の助けを借りながら、ゆっくりと克服していった。それは困難な道のりだったが、二人の間には、揺るぎない絆が生まれていた。
そして、時間が経つにつれて、レムの身体にも変化が現れ始めた。彼女の薬としての性質は薄れていったが、代わりに、人間としての感情が豊かになっていったのだ。
ついに、レムは完全に人間としての姿を手に入れた。彼女は薬ではなく、ユウキにとってかけがえのない存在となったのだ。
「ありがとう、ユウキ。あたしを人間にしてくれて。」
レムはユウキに感謝の言葉を伝えた。ユウキは優しく微笑んだ。「僕の方こそ、ありがとう。君がいてくれたから、僕は変わることができたんだ。」
二人は手を取り合い、未来へと歩き出した。過去の過ちを乗り越え、愛と希望に満ちた新たな人生を歩むために。