Drama
14 to 20 years old
2000 to 5000 words
Japanese
眩しい光が数学の記号で埋め尽くされたノートを照らす。カチ、カチ、と秒針の音が響く部屋で、少年、光輝(こうき)は難しい顔で数式とにらめっこしていた。
光輝は、天才と持て囃されるほど、数学の才能に恵まれていた。しかし、その才能は同時に、彼を孤独へと導いていた。
小学生の頃から、光輝は周囲の子供たちとは全く違う世界に住んでいた。彼らはゲームやスポーツに夢中だったが、光輝は数式の中で宇宙の真理を探求していた。理解者がいないという孤独は、次第に光輝の心を蝕んでいった。
中学に入ると、状況はさらに悪化した。周囲の目は、憧憬から嫉妬、そして軽蔑へと変わっていった。光輝は、数学以外の全てから意識的に距離を置くようになった。
唯一、光輝の心の支えとなっていたのは、幼馴染の凛(りん)だった。明るく活発な凛は、光輝の才能を素直に尊敬し、彼の孤独を癒そうとしてくれた。凛は光輝にとって、太陽のような存在だった。
ある日、光輝は凛に、自分の抱える苦悩を打ち明けた。光輝の言葉に、凛は真剣な表情で耳を傾けた。「光輝は、才能があるから苦しいんだね。でも、その才能を誰かのために使えば、きっと世界は変わるよ」
凛の言葉は、光輝の心に深く突き刺さった。光輝は、数学の才能を、自分のためだけでなく、誰かのために使おうと決意した。
それからというもの、光輝は積極的にボランティア活動に参加し、数学の知識を活かして子供たちに勉強を教えたり、高齢者の生活をサポートしたりした。人との交流を通して、光輝は徐々に閉ざされた心を解き放っていった。
高校生になった光輝は、凛と共に数学オリンピックを目指すようになった。凛は数学が得意ではなかったが、光輝の才能を最大限に引き出すために、献身的にサポートした。
練習の日々の中で、二人の間には、友情を超えた感情が芽生え始めた。光輝は凛の優しさ、明るさ、そして自分を理解してくれるその心に、強く惹かれていった。
しかし、光輝は過去の経験から、他者との深い繋がりを恐れていた。中学時代、光輝には唯一の親友がいた。彼は数学だけでなく、全てにおいて光輝に依存していた。しかし、その依存は次第に光輝を苦しめ、ついには二人の関係は崩壊してしまった。それ以来、光輝は深く人を愛することを恐れていたのだ。
初めて凛と二人きりで図書館に向かう帰り道、夕焼けが二人を優しく包み込んだ。凛は、突然立ち止まり、光輝を見つめた。「光輝は、私のこと、どう思ってるの?」凛の真剣な眼差しに、光輝は動揺した。これが恋愛なのか? それともただの依存なのか? 光輝は答えを見つけられずにいた。
「凛は、俺にとって…大切な存在だ。でも…」言葉を濁す光輝に、凛は悲しそうな表情を浮かべた。「でも、何? 光輝は、私を傷つけるのが怖いだけじゃないの? 過去のトラウマから逃げてるだけじゃないの?」
凛の言葉は、光輝の心の奥底に隠されていた痛みを抉り出した。光輝は、震える声で呟いた。「怖いんだ…また誰かを傷つけてしまうのが…」
凛は、光輝を優しく抱きしめた。「光輝は、そんなこと絶対にしない。私は光輝を信じてる」凛の温もりに触れ、光輝は堰を切ったように涙を流した。
その日から、光輝は少しずつ、過去のトラウマと向き合うようになった。凛の助けを借りながら、光輝はカウンセリングに通い、自分の心の傷を癒していった。
しかし、光輝の心の闇は、そう簡単に消え去るものではなかった。プレッシャーや不安に押しつぶされそうになると、光輝は無意識のうちに自分の体を傷つけてしまうことがあった。それは、光輝にとって、唯一の逃げ場だった。いわゆる自傷行為だ。
ある日、凛は光輝の腕に刻まれた傷跡を見つけてしまった。凛は、言葉を失い、ただ涙を流した。光輝は、凛に謝ることしかできなかった。「ごめん…ごめん…凛を悲しませたくなかったんだ…」
凛は、光輝を強く抱きしめた。「光輝は、一人で抱え込まないで。私を頼って。私は、いつでも光輝のそばにいるから」
凛の言葉に、光輝は救われた。光輝は、自分の弱さを認め、凛に頼ることを決意した。
それからというもの、光輝は自傷行為をすることなく、穏やかな日々を送るようになった。凛は、光輝の心の支えとなり、彼の才能を開花させるために、惜しみない愛情を注いだ。
数年後、光輝と凛は、二人揃って数学者として、世界的な研究機関に所属していた。光輝は、自分の才能を活かして、難病に苦しむ人々のための新薬開発に携わっていた。凛は、光輝の研究をサポートしながら、数学の普及活動に力を入れていた。
ある日、光輝は凛にプロポーズした。「凛、君と出会えたから、俺は変わることができた。君は、俺の太陽だ。これから先も、ずっと一緒にいてほしい」
凛は、涙を堪えながら頷いた。「光輝、私も。私もずっと光輝のそばにいたい」
二人は、祝福に包まれながら結婚式を挙げた。結婚式の後、光輝は凛に語りかけた。「凛、ありがとう。君がいなければ、今の俺はいない。俺は、君を一生愛し続ける」
凛は、光輝の頬にそっとキスをした。「私も。光輝を一生愛し続けるわ」
光輝と凛は、数学と愛情によって結ばれ、互いに依存しながらも、支え合い、高め合いながら、幸せな人生を歩んでいった。過去のトラウマを乗り越え、自傷行為とも決別し、二人の愛は、歪んだ螺旋から、美しい円へと形を変えていった。