Drama
14 to 20 years old
2000 to 5000 words
Japanese
朝焼けが差し込む研究室。窓際の席で、ユウトは 数学 の難問に頭を抱えていた。数式が羅列されたノートは、まるで迷宮の入り口のようだった。彼は数学者になることを夢見ていたが、現実は厳しかった。
ふと、LINEの通知音が響く。画面に表示されたのは、サクラの名前。彼女からのメッセージを見るたびに、ユウトの心はざわめき立つ。サクラは、ユウトにとって太陽のような存在だった。
ユウトとサクラが出会ったのは、高校の入学式だった。ユウトは人見知りが激しく、誰とも打ち解けられずにいた。そんな時、サクラが笑顔で話しかけてくれたのだ。「私、サクラって言います。よろしくね！」
サクラの明るさに惹かれ、ユウトは徐々に心を開いていった。二人でいる時間は、ユウトにとってかけがえのないものだった。しかし、ユウトはサクラに対して、特別な感情を抱いていることに気づき始めていた。
ある日、ユウトはサクラを映画に誘った。映画の後、二人は近くの公園を散歩することにした。夕焼けが空を染め上げ、公園はロマンチックな雰囲気に包まれていた。
「ユウトって、数学が得意なんだね。私、全然わかんないんだ。」サクラが言った。
「サクラに教えるのは、全然苦じゃないよ。」ユウトは照れながら答えた。
その時、サクラはユウトの腕にそっと触れた。「ありがとう。ユウトがいてくれて、本当に助かってる。」
ユウトの心臓はドキドキと高鳴った。サクラの温もりが、ユウトの全身を駆け巡るようだった。依存 しているのは、自分の方だと自覚しながら、それでもこの温もりを手放したくなかった。
しかし、ユウトは不安を感じ始めていた。サクラは、ユウトのことをただの依存対象として見ているのではないか？二人の関係は、健全な恋愛とは違うのではないか？
そんな不安を抱えながらも、ユウトはサクラとの関係を深めていった。二人で過ごす時間が増えるほど、ユウトの依存心は強まっていった。
ある日、ユウトはサクラから電話を受けた。「ちょっと話したいことがあるんだけど、今度会える？」サクラの声は、どこか深刻そうだった。
指定されたカフェで、ユウトはサクラを待っていた。サクラが席に着くと、ユウトは緊張を隠せなかった。
「ユウトに、言わなければならないことがあるの。」サクラは深呼吸をして、言葉を続けた。「私、海外に留学することになったの。」
ユウトは、まるで時間が止まったかのように感じた。サクラが留学してしまう？それは、ユウトにとって世界の終わりを意味していた。
「いつ、出発するの？」ユウトは、震える声で尋ねた。
「来週よ。」サクラは悲しそうな顔で答えた。「ユウトには、もっと早く伝えるべきだったんだけど…。」
ユウトは、何も言えなかった。サクラが留学してしまうという現実を、受け止めることができなかった。
カフェを出た後、ユウトは一人で公園を歩いていた。ベンチに座り、空を見上げると、涙が溢れてきた。サクラがいなくなることが、こんなにも辛いことだとは思わなかった。
家に帰り、ユウトは自室に閉じこもった。無力感と絶望感に苛まれ、ユウトは自分の腕を爪で引っ掻いた。自傷行為は、一時的な気休めにしかならなかった。
翌日、ユウトはサクラに会った。「俺、サクラのこと、好きだったんだ。」ユウトは、震える声で告白した。
サクラは、驚いた顔でユウトを見つめた。「ユウト…。」
「知ってたんだろ？俺がサクラに依存していること。でも、見て見ぬふりをしていたんだろ？」ユウトは、自嘲気味に言った。
サクラは、涙を浮かべながら答えた。「ごめんね、ユウト。あなたの気持ちに気づいていたけど、私は…。」
サクラは、言葉を濁した。「私は、あなたのことを大切に思っている。でも、それは恋愛感情とは違うの。」
ユウトは、自分の勘違いに気づいた。サクラは、ユウトのことを依存対象としてではなく、友人として大切に思っていたのだ。
サクラの言葉を聞き、ユウトはさらに深く傷ついた。しかし、同時に、自分の依存心が、サクラを苦しめていたことに気づいた。
「サクラ、ごめん。今まで、依存してばかりで。これからは、自分の力で生きていく。」ユウトは、決意を込めて言った。
サクラは、ユウトの目を見て言った。「ユウトなら、きっとできる。私は、いつでも応援しているから。」
サクラの留学の日、ユウトは空港まで見送りに来た。「頑張ってね、サクラ。」ユウトは、笑顔で言った。
「ユウトも、頑張ってね。」サクラは、涙を拭いながら言った。
サクラが搭乗ゲートに向かう姿を見送りながら、ユウトは自分の未来を見つめた。サクラのいない世界は、寂しいかもしれない。しかし、ユウトは自分の力で、その寂しさを乗り越えなければならない。
ユウトは、数学の研究に没頭した。以前はサクラに依存することで逃げていたが、今は数学に真剣に向き合うことができた。
研究は難航し、何度も挫折しかけた。しかし、ユウトは諦めなかった。サクラの応援を胸に、ユウトは困難に立ち向かった。
数年後、ユウトは念願の数学者になった。研究室で、ユウトは新たな難問に挑戦していた。ふと、窓の外を見ると、桜の花が咲き誇っていた。
ユウトは、桜の花を見ながら、サクラのことを思い出した。サクラとの出会いが、ユウトの人生を変えたのだ。歪んだ依存心から始まった関係は、ユウトに自立心を与えてくれた。
ユウトは、ノートに数式を書き始めた。今度の問題は、サクラへの感謝の気持ちを込めた、特別な証明だった。これは、ただの数学の問題ではない。ユウト自身の成長の証明なのだ。
サクラと初めて会った時、これが依存なのだろうか？恋愛なのだろうか？ 彼は迷っていた。今は違う、彼は自分が強くなったことを理解していた。
過去に 自傷 行為をしていた頃の自分とはもう違う。彼は一人の数学者として、力強く生きていた。