Drama
21 to 35 years old
2000 to 5000 words
Japanese
僕は死後の世界で目を覚ました。EPR97809、ショウと呼ばれる存在として。
生前と変わらない、どこか懐かしい風景が広がっていた。
しかし、ここは生きている世界ではない。療養所という場所で、転生することもなく、ただ時間が過ぎていく。
生きていた頃から受容できなかった自分自身を、ここでも受容することができなかった。
孤独は、まるで底なし沼のように僕の心を蝕んでいった。
そして、僕は療養所の個室に引きこもることになる。八年という長い時間。
死んだら楽になると思っていた。だが、死後の世界にも苦しみがあることを知った。
それは、二度と死ぬことができないという、残酷な現実。
「ショウさん、少しだけお話しませんか?無理強いはしませんから」
その声の主は、毎日僕の部屋を訪ねてきた。名前は成香さんと言った。
その日から、僕は少しずつ成香さんと話すようになった。
彼女は僕の過去を聞き出そうとはしなかった。ただ、そばにいてくれた。
「ショウさんは、何か後悔していることってありますか?」
「無理にとは言いません。ただ、話すことで楽になることもあるかもしれません」
時間がゆっくりと過ぎていくにつれて、僕は少しずつ変わっていった。
ある日、成香さんは僕を療養所の庭に連れ出してくれた。
「ええ。辛い過去を乗り越えて、今こうしてここにいるショウさんは、とても綺麗です」
「無理強いはしません。でも、向き合わない限り、あなたは前に進めないかもしれません」
夜、僕は悪夢を見た。燃え盛る炎。逃げ惑う人々。そして、幼い息子の泣き叫ぶ声。
会社は倒産寸前だった。借金は膨らみ、首が回らない。妻は病に倒れ、入院していた。
そして、僕は決断した。息子だけは、生きてほしいと願った。
「僕は…僕は、家に火を放ったんです。息子を残して…」
涙が止まらなかった。後悔の念が、僕の心を締め付ける。
「死後、息子は施設に預けられたと聞きました。元気にしているでしょうか…」
成香さんは何も言わなかった。ただ、僕の肩を抱きしめてくれた。
「ええ。彼は、あなたが願った通り、強く生きています」
それでも、息子の成長を知ることができたのは、僕にとって唯一の救いだった。
「あなたは、彼を見守り続けることができます。そして、彼のために、生きて…いいえ、死後を生きるのです」
僕は、療養所の生活を続けながら、少しずつ前向きに生きるようになった。
過去の過ちを受容し、息子のために、死後の世界でできることを探し始めた。
数年後、僕は療養所のボランティアとして、他の死後の世界に来た人々の心のケアをするようになった。
過去の僕のように、苦しんでいる人々の話を聞き、寄り添う。
ある日、僕は奇妙な感覚に襲われた。まるで、息子が危機に瀕しているかのような。
僕の予感は的中した。現実世界で、息子は深い悩みを抱え、死を考えていた。
息子は、父と同じように、自ら命を絶とうとしていたのだ。
息子の夢の中で、僕は過去の過ちを謝罪した。そして、生きてほしいと、心の底から願った。
「お父さんは、間違っていた。〇〇、お前は生きるんだ。生きて、幸せになってくれ!」
息子は、自殺を思いとどまった。そして、生きることを決意した。
「息子さんは、大丈夫です。彼は、生きていくことを選びました」
僕は、死後の世界で、もう一度人生をやり直すことができた。
過去の過ちを背負いながらも、未来への希望を抱いて、生きて… 死後を生きる。
そして、いつか息子と再会できる日を信じて、僕は今日も療養所で人々の心のケアを続けている。
成香さんはいつもそばにいてくれる。彼女の笑顔は、僕の心を温かく照らしてくれる。
僕は、死後の世界で、ようやく受容することができた。自分自身の過ちを、そして、愛する息子のために生きるという使命を。
この死後の世界は、僕にとって新たな始まりだったのだ。