Drama
21 to 35 years old
2000 to 5000 words
Japanese
気が付くと、僕は見慣れない場所に立っていた。ここはどこだろう？ 死後の世界？ 周りを見渡すと、同じように戸惑っている人々が大勢いる。どうやら、僕は死んでしまったらしい。
僕の名前はショウ。享年、享年は…思い出せない。でも、確かに僕は死んだ。原因も…ぼんやりとしか思い出せないんだ。
転生を待つこともなく、僕は『療養所』と呼ばれる場所へ案内された。そこは、生きている世界とほとんど変わらない、少し寂れた病院のような場所だった。
「あなたはここで、心と体の傷を癒してください」そう告げられたけれど、僕には癒す場所なんてどこにもない。生きている時からずっと、僕は孤独だった。そして、死んだ今も、その孤独は僕を蝕んでいる。
療養所での生活は、退屈で単調だった。朝起きて、食事をし、ぼんやりと時間を潰す。まるで、抜け殻のようだった。部屋に引きこもり、誰とも話さず、ただ時間が過ぎるのを待つ日々。それが、８年間も続いた。
生きていた時は、『死んだら楽になる』とばかり思っていた。でも、それは幻想だった。死後の世界には、死後の世界なりの苦しみがある。それは、死にたくても死ねないという、残酷な現実だった。
そんな絶望の中で、僕はナリカと出会った。彼女は、僕とは対照的に、いつも明るく笑顔を絶やさない人だった。
「こんにちは、ショウさん」彼女はいつも、僕に優しく話しかけてくれた。「元気がないですね。何かあったんですか？」
僕は彼女に、自分の孤独や絶望を打ち明けた。最初は戸惑っていた彼女も、真剣に僕の話を聞いてくれた。
「死ぬことは終わりじゃない。新しい始まりなのよ」ナリカは、僕の目を見て言った。「ここで、あなたは変わることができる。過去と向き合い、未来を創造することができるの」
ナリカの言葉は、僕の心に深く響いた。彼女と話すうちに、少しずつ、僕は閉ざされた心を খুলেいていくようになった。
ある日、ナリカは僕を療養所の外に連れ出した。「たまには、外の空気を吸いましょう」
８年ぶりに外に出た僕は、眩しい光に目を細めた。空はどこまでも青く、風は心地よかった。まるで、自分が生まれ変わったかのような気分だった。
ナリカは僕に、様々な場所を案内してくれた。美しい庭園、活気溢れるマーケット、穏やかな湖。死後の世界にも、こんなに素敵な場所があるなんて知らなかった。
ナリカとの出会いをきっかけに、僕は少しずつ、自分が死んだ事を受け入れ始めた。彼女はいつも僕のそばにいて、優しく支えてくれた。
「どうして、あなたはそんなに優しいんですか？」ある日、僕はナリカに尋ねた。「僕みたいな、孤独で暗い人間に対して…」
「私はただ、ショウさんの力になりたいだけなの」ナリカは微笑んだ。「誰だって、傷を抱えている。それを癒す手助けをするのが、私の役目なの」
ナリカのおかげで、僕は少しずつ、過去と向き合うことができるようになった。封印していた死因を思い出す作業は、苦痛を伴った。
断片的に思い出される過去の記憶。炎、苦しみ、後悔…。僕は、息子を残したまま、焼身自殺を図ったのだ。
その事実に気が付いた瞬間、僕は激しい後悔に襲われた。なぜ、僕はあんなことをしてしまったんだ？ 息子に、どれだけの傷を与えてしまったんだ？
僕は泣き崩れた。ナリカは何も言わずに、僕を抱きしめてくれた。彼女の温もりが、僕の凍てついた心を溶かしていくようだった。
時間をかけて、僕は少しずつ、息子への罪悪感と向き合うようになった。ナリカは、僕の心の声に耳を傾け、優しく励ましてくれた。
ある日、ナリカは僕に言った。「あなたは、償いをすることができるわ。生きていた時にできなかったことを、ここでやり遂げればいいの」
償い…。僕は、一体何をすればいいのだろう？ 息子のために、何ができるのだろう？
そんなある日、僕は療養所で、現実世界の様子を映し出すことができる特別なスクリーンを見つけた。そこに映っていたのは、大人になった息子の姿だった。
息子は、憔悴しきっていた。目は虚ろで、まるで抜け殻のようだった。彼は、僕の後を追って、死後の世界に来ようとしているのではないか…？
僕は、焦りを感じた。絶対に、そんなことをさせてはいけない！ 僕は、必死にスクリーンに語りかけた。「やめろ！ 死ぬな！」
僕の声は、息子には届かない。それでも、僕は叫び続けた。「生きてくれ！ 生きて、幸せになってくれ！」
すると、不思議なことが起きた。スクリーンの映像が揺らぎ、かすかに、息子の表情が変化したのだ。彼は、涙を流していた。そして、小さく頷いた。
その瞬間、僕は確信した。僕の声は、息子に届いたのだ。彼は、生きることを選んでくれたのだ。
僕は、安堵のため息をついた。そして、ナリカに感謝した。「ありがとう、ナリカ。あなたのおかげで、僕は救われた」
「私も嬉しいわ、ショウさん」ナリカは微笑んだ。「あなたは、もう一人じゃない。あなたは、これから新しい人生を歩むことができるの」
死後の世界で、僕はナリカに出会い、過去と向き合い、償いをすることができた。そして、生きることの素晴らしさを、改めて知ることができた。
僕は、これからも療養所で、多くの人々を癒し、希望を与える存在として生きていくだろう。そして、いつか、息子に再会できる日を夢見て…。
たとえ、死後の世界であっても、愛と希望があれば、人は再び輝ける。僕は、そう信じている。