Drama
14 to 20 years old
2000 to 5000 words
Japanese
東京の喧騒から少し離れた、古びたアパートの一室。茜(あかね)は、パソコンの画面を睨みつけていた。部屋の隅には、埃を被ったままのランドセル。それは、死んでしまった妹、葵(あおい)のものだった。
葵は、学校でのいじめが原因で自殺した。首を吊った妹を見つけたのは、茜だった。あの日から、茜の世界はモノクロになった。残されたのは、怒りと後悔だけ。
茜は、葵を死に追いやった加害者たちへの復讐を誓った。しかし、直接的な暴力は、彼女の望む答えではなかった。もっと深く、彼らの心を破壊する方法を探していた。
そんな時、茜は噂を聞いた。それは、ある動画投稿チャンネルについて。曰く、そこには人間の闇を深くえぐるような映像が投稿されており、見た者は精神を崩壊させ、自殺する者もいる、と。
人々はそれを『漆黒のプリズム』と呼んでいた。そこでは、人間の醜さや弱さが、容赦なく暴き出される。茜は思った。これこそ、葵の仇を討つための舞台だと。
茜は『漆黒のプリズム』の求人を見つけた。そこでは、新しい『演者』を募集していた。茜は迷わず応募した。書類選考、面接、そして過酷なオーディション。茜は全てをクリアした。
合格通知を受け取った日、茜は古い日記帳を燃やした。それは、過去の自分との決別を意味していた。新しい名前、『ヨル』。そして、新しい役割。彼女は、『漆黒のプリズム』のアイドル的な存在、『闇のお姉さん』になるのだ。
ヨルの最初の仕事は、チャンネルの広報活動だった。可愛らしいアイドルのような笑顔で、辛辣なコメントを返す。そのギャップが、視聴者の心を掴んだ。再生数はうなぎ登りに増え、ヨルは瞬く間に人気者になった。
しかし、ヨルの本当の目的は、視聴者を喜ばせることではなかった。彼女は、動画投稿を通じて、葵をいじめた加害者たちを闇に引きずり込むことだった。
ヨルは、加害者たちの情報を集めた。彼らの性格、弱点、秘密。そして、それを元に、彼らを絶望させるような映像を作り上げた。
最初のターゲットは、葵をいじめていたグループのリーダー格の少年、翔太(しょうた)だった。ヨルは、翔太の罪を告発する動画を投稿した。そこには、翔太が葵をいじめている音声データや、盗撮された写真などが含まれていた。
動画は瞬く間に拡散され、翔太は世間から非難された。彼は学校に通えなくなり、友達も離れていった。精神的に追い詰められた翔太は、ヨルの思惑通り、死を選んだ。
ヨルは、冷たい目で翔太の死のニュースを見た。彼女の心には、何の感情も湧き上がってこなかった。復讐の炎は、彼女の心を蝕み、空っぽにしてしまった。
次のターゲットは、翔太のグループのメンバーだった少女、美咲(みさき)。美咲は、表向きは優等生を演じていたが、裏では陰湿ないじめを行っていた。ヨルは、美咲の二面性を暴き出す動画を投稿した。
美咲は、ヨルの攻撃に耐えきれず、精神病院に入院した。彼女は、自分が誰なのかわからなくなり、過去の記憶を失ってしまった。
ヨルは、次々と加害者たちを闇に突き落としていった。彼女の手法はエスカレートし、過激さを増していった。ヨルは、もはや復讐に取り憑かれたサイコパスと化していた。
しかし、ヨルの行動は、次第に『漆黒のプリズム』の内部でも問題視されるようになった。チャンネルの運営者は、ヨルの過激さを抑えようとしたが、ヨルは聞く耳を持たなかった。
ある日、ヨルはチャンネルの運営者に呼び出された。そこで、ヨルは驚くべき事実を知らされる。なんと、葵をいじめていたのは、翔太たちのグループだけではなかった。チャンネルの運営者自身も、葵のいじめに関わっていたのだ。
ヨルは激昂し、運営者に襲いかかった。しかし、返り討ちに遭い、意識を失ってしまう。気がつくと、ヨルは薄暗い部屋に監禁されていた。
運営者は、ヨルに語りかけた。「君は、復讐に囚われすぎた。そして、闇に染まりすぎた。もはや、君は自分の意思で生きているのではない。」
運営者は、ヨルに最後の動画を撮影するように命じた。それは、ヨルがこれまでに行った復讐の全てを告白し、視聴者に謝罪するという内容だった。
ヨルは、言われるがままに動画を撮影した。しかし、最後にヨルは、運営者の罪を告発した。そして、葵の名前を叫び、自らの首を絞めた。
『漆黒のプリズム』のチャンネルは、閉鎖された。しかし、ヨルの動画投稿は、多くの人々の心に深い傷跡を残した。復讐は何も生まない。ただ、闇を増幅させるだけ。
茜(ヨル)の復讐は、死をもって終わりを迎えた。しかし、葵の残響は、永遠に人々の心に響き続けるだろう。