Drama
14 to 20 years old
2000 to 5000 words
Japanese
桜が舞い散る四月の朝、高校二年生の高志は、いつものように依存していた通学路を歩いていた。新しいクラス、新しい出会い。期待よりも、また一人になるのではないかという恐怖が胸を締め付けていた。
過去の苦い経験が、彼を臆病にさせていたのだ。中学時代、親友と呼べる存在がいた。亮太。二人はいつも一緒で、まるで兄弟のようだった。しかし、高志の依存は次第に亮太を束縛し、ついには亮太が音を上げて去っていった。その日以来、高志は人間関係を極度に恐れるようになった。
校門の前で、高志は一人の少女に出会った。長い黒髪が風に揺れ、憂いを帯びた瞳がこちらを見つめていた。美咲という名前だった。一瞬で、高志の心臓は早鐘のように鳴り出した。これが、恋愛なのか? それとも、また同じように依存してしまうのか?
美咲は、どこか儚い雰囲気を漂わせていた。どこか悲しげで、守ってあげたいと思わせる。高志は、今まで感じたことのない感情に戸惑っていた。初対面だというのに、なぜか昔から知っていたような気がした。
「あの……もしかして、同じクラス?」高志は、震える声で尋ねた。美咲は、静かに頷いた。「うん。よろしくね、高志くん」その瞬間、高志の孤独が少しだけ薄れた気がした。
二人は同じクラスになった。授業中、高志は何度も美咲を盗み見た。彼女はいつも窓の外を眺め、何か物思いに耽っているようだった。高志は、彼女が何を考えているのか、知りたくなった。
昼休み、高志は勇気を振り絞って美咲に話しかけた。「ねえ、よかったら一緒にお昼食べない?」美咲は、少し驚いたような顔をした後、小さく微笑んだ。「うん、いいよ」
二人は屋上でお弁当を食べた。最初はぎこちなかったが、徐々に会話が弾み始めた。美咲は、高志のぎこちなさを優しく包み込み、彼の心を開かせていった。高志は、彼女に自分の過去を、亮太との出来事を打ち明けた。
美咲は、黙って高志の話を聞いていた。そして、最後にこう言った。「それは辛かったね。でも、高志くんはもう一人じゃないよ。私がいる」その言葉に、高志は救われた。
しかし、美咲には秘密があった。彼女は、自傷行為を繰り返していたのだ。誰にも相談できず、孤独の中で苦しんでいた。高志と出会ってからは、少しだけ頻度が減ったものの、完全に断ち切ることはできなかった。
ある日、高志は美咲の腕に、痛々しい傷跡を見つけてしまった。「これは……?」高志は、言葉を失った。美咲は、顔を真っ青にして、言い訳をしようとしたが、結局何も言えなかった。
高志は、美咲を責めることはできなかった。彼は、美咲の心の痛みが痛いほどわかったからだ。なぜなら、彼自身もまた、孤独の中で苦しんだ経験があるからだ。
高志は、美咲を抱きしめた。強く、優しく、彼女が壊れてしまわないように。「大丈夫だよ。僕が、君を守るから」美咲は、高志の胸の中で、嗚咽を漏らした。
それから、二人は互いを支え合いながら生きていくようになった。高志は、美咲の心の傷を癒すために、できる限りのことをした。美咲もまた、高志の臆病さを克服するために、勇気を与えた。
しかし、過去はそう簡単には消えなかった。ある日、高志は亮太に再会してしまったのだ。亮太は、高志を激しく憎んでいた。「お前なんかのせいで、俺の人生はめちゃくちゃだ!」
亮太は、高志に暴言を浴びせ、暴行を加えた。高志は、ただ耐えるしかなかった。過去の罪を償うために。
美咲が駆けつけたとき、高志は地面にうずくまっていた。顔面は腫れ上がり、血が滲んでいた。美咲は、激怒した。「やめて! もう高志くんを傷つけないで!」
亮太は、美咲を嘲笑した。「なんだ、新しいおもちゃか? お前もすぐに飽きるぞ」美咲は、怯むことなく、亮太を睨みつけた。「高志くんは、おもちゃなんかじゃない。私にとって、大切な人なの!」
美咲の言葉に、亮太は言葉を失った。そして、悔しそうに、その場を去っていった。高志は、美咲に支えられながら、立ち上がった。「ありがとう、美咲……」
その日以来、亮太は執拗に高志と美咲を追いかけ回すようになった。学校で待ち伏せしたり、中傷ビラを撒いたり……二人は、恐怖に怯えながら生活しなければならなかった。
それでも、二人は諦めなかった。互いを信じ、愛し合いながら、困難を乗り越えていった。高志は、亮太に立ち向かうことを決意した。「もう、逃げない。僕は、美咲を守る!」
ある夜、高志は亮太に呼び出された。廃墟のような場所に連れて行かれ、集団リンチに遭った。絶体絶命の状況の中で、高志は意識を失いかけた。しかし、その時、美咲の声が聞こえた。
「高志くん! 頑張って!」美咲は、警察を連れて駆けつけてくれたのだ。乱闘の末、亮太たちは逮捕された。高志は、満身創痍だったが、生きていた。そして、美咲が無事だったことが、何よりも嬉しかった。
事件の後、高志と美咲は、田舎に引っ越すことにした。過去を忘れ、新しい生活を始めるために。二人は、小さな家を借り、畑を耕し、穏やかな日々を送った。
高志は、カウンセラーの助けを借りながら、過去のトラウマを克服していった。美咲もまた、自傷行為を完全に断ち切ることができた。二人は、互いの存在が、生きる力になっていた。
いつしか、高志と美咲は、結婚した。小さな結婚式を挙げ、誓いを立てた。互いを愛し、支え合い、共に生きていくことを。依存から始まった関係は、真実の愛へと変わっていった。
高志と美咲は、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。彼らの愛は、まるで硝子の檻の中に咲くカナリアのように、美しく、力強く、そして繊細だった。
数年後、高志と美咲は、海辺の町でカフェを開いた。カフェの名前は「カナリア」。高志は焙煎を担当し、美咲は得意の絵を描いて店内を飾った。店はすぐに評判となり、多くの人々が訪れるようになった。かつての依存や自傷の影は、もう二人の間にはなかった。支え合うことで得た確かな絆だけが、そこにあった。
ある日、カフェに一人の男が訪れた。彼は少しやつれてはいたが、高志にはすぐにわかった。亮太だった。亮太は謝罪した。「あの時は本当にすまなかった…」亮太の目には涙が浮かんでいた。高志は、静かに言った。「もう、過去のことはいいんだ」
高志は亮太にコーヒーを淹れた。三人は、ぎこちないながらも、過去のこと、現在のこと、そして未来のことを語り合った。亮太は、高志と美咲の幸せそうな姿を見て、心から安堵した。憎しみは消え、許しが芽生えた。残酷な仕打ちも、すべては過去のことになった。そして、高志は新しい一歩を踏み出したのだった。
そして、高志は、かつて自分を苦しめた過去の依存や葛藤を、力に変え、未来へと歩み続けることができたのだ。