硝子の檻の中のユリ

Drama 14 to 20 years old 2000 to 5000 words Japanese

Story Content

高校二年生の春、雨上がりの校庭で、ユリカイトに出会った。水溜まりに映る空をぼんやりと見つめるカイトの姿に、なぜか目が離せなかった。ユリは、明るく活発な女の子で、周りには常に友達がいた。一方、カイトはいつも一人で、どこか陰のある雰囲気をまとっていた。
「あの、大丈夫ですか?」ユリは、勇気を出してカイトに声をかけた。彼は、驚いたように顔を上げ、戸惑った表情を見せた。「ああ、別に。なんでもないよ」彼は、そう言って立ち去ろうとしたが、ユリは彼の袖を掴んだ。「もし、何かあったら、いつでも話してくださいね」ユリの言葉に、カイトは一瞬立ち止まり、小さく「ありがとう」と呟いて、去っていった。
それからというもの、ユリカイトのことが頭から離れなかった。彼のことが気になり、毎日、彼を探すようになった。そして、放課後、彼はいつも決まった場所で、一人で絵を描いているのを見つけた。
ユリは、毎日、彼の元へ通うようになった。最初は警戒していたカイトも、徐々にユリに心を開き始めた。彼は、自分の抱える苦しみや、過去の辛い出来事を、ユリに語るようになった。彼は小さい頃から両親に放置されがちで、愛情に飢えていた。依存できる対象を求めていたのだ。
「俺は、小さい頃から、ずっと一人ぼっちだった。誰も俺のことなんか気にしてくれなかった」カイトは、寂しげに言った。「そんなことないよ。私は、カイトのこと、すごく気になっている」ユリは、彼の言葉に、胸が締め付けられるような思いがした。
二人は、毎日一緒に過ごすようになった。学校が終わると、一緒に絵を描いたり、カフェでおしゃべりしたり、公園を散歩したりした。 ユリは、カイトと一緒にいる時間が、何よりも大切だった。彼女は彼を依存できる対象として、特別な感情を抱き始めていた。これは、ただの友情なのか、それとも恋愛なのか。ユリはわからなかった。
しかし、カイトの抱える闇は深かった。彼は、過去のトラウマから抜け出すことができず、常に自傷行為を繰り返していた。ある日、ユリは、彼の腕に無数の傷跡があるのを見つけてしまった。
「これは…どうしたの?」ユリは、震える声で聞いた。カイトは、目を逸らし、「…別に、なんでもないよ」と答えた。ユリは、彼の言葉を信じなかった。「嘘だ。これは、自分でやったんでしょう? どうして、そんなことをするの?」ユリの問いかけに、カイトは何も答えられなかった。
彼はうつむき、ただ静かに涙を流した。「俺は、自分が嫌いなんだ。生きてる価値なんてないと思ってる」カイトは、絞り出すように言った。ユリは、彼を抱きしめた。「そんなことないよ。あなたは、生きてる価値がある。私は、あなたのことが大切なんだから」ユリの言葉に、カイトはさらに涙を流した。
ユリは、カイトを救いたいと強く思った。彼女は、彼の心の傷を癒し、彼に生きる希望を与えたいと願った。しかし、カイト依存は深く、ユリの力だけでは、どうすることもできなかった。
ある日、カイトユリに言った。「もう、疲れた。俺は、もう、生きていけない」ユリは、彼の言葉に絶望した。「そんなこと言わないで。お願いだから、死なないで」ユリは、泣きながらカイトに懇願した。
しかし、カイトの決意は固かった。彼は、その日の夜、自殺を図った。 ユリは、彼の遺書を見つけた。そこには、「ユリ、ごめん。君には、感謝している。でも、もう、俺は、限界なんだ」と書かれていた。
ユリは、カイトの死に深く依存していたため、大きな衝撃を受けた。彼女は、自分が彼を救えなかったことを悔やみ、激しい自傷行為に走った。 彼女は、「私がもっと早く気づいていれば…私がもっと何かできたなら…」と何度も自分を責めた。
カウンセリングを受けながら、ユリは徐々に立ち直っていった。彼女は、カイトの死を乗り越え、彼が教えてくれたこと、彼との思い出を胸に、前を向いて生きていくことを決意した。
彼女はカイトの死を無駄にしないために、彼の分まで精一杯生きようと決意したのだ。彼女は彼の描いた絵を大切に保管し、いつか彼の絵を世界に広めたいと考えていた。
それから数年後、ユリは美大に進学し、画家になった。ユリの描く絵は、カイトへの思いを込めた、色彩豊かで、力強い作品だった。彼女の絵は、多くの人々の心を揺さぶり、高い評価を受けるようになった。
ある日、ユリは、個展を開いた。会場には、多くの人々が集まり、彼女の絵に見入っていた。その中には、カイトの両親もいた。
ユリは、カイトの両親に深々と頭を下げた。「カイトは、私の大切な友達でした。彼が私に教えてくれたこと、彼との思い出は、私の一生の宝物です」ユリの言葉に、カイトの両親は涙を流した。「カイトは、ユリさんと出会えて、本当に幸せだったと思います」カイトの母親は、そう言ってユリの手を握った。
ユリは、カイトの絵を、彼の両親に見せた。彼の両親は、初めて息子の絵を見て、深い感動に包まれた。「カイトは、こんなに素晴らしい才能を持っていたんですね…」カイトの父親は、涙声で言った。
ユリは、カイトの絵を、世界に広めることを決意した。彼女は、彼の才能を多くの人々に知ってもらい、彼の生きた証を残したいと願った。
彼女は、彼の絵を携え、世界中を旅した。彼の絵は、人々の心を癒し、感動を与えた。そして、カイトの名前は、世界中に知られるようになった。
ユリは、カイトとの出会いを決して忘れない。彼女は、彼が教えてくれたことを胸に、これからも、絵を描き続けていく。彼の魂は、彼女の絵の中に生き続けるだろう。
硝子の檻の中で、ひっそりと咲いていたユリは、カイトとの出会いを通して、力強く、美しい花へと変わったのだ。