硝子の絆創膏

Drama 14 to 20 years old 2000 to 5000 words Japanese

Story Content

雨上がりの午後、高校の昇降口で、ユウキは息を止めた。傘を差すこともなく、ぼんやりと空を見上げている少女。サクラ。初めて見る彼女の姿に、胸が締め付けられるような痛みを覚えた。
その日の放課後、図書室で偶然サクラを見つけたユウキは、勇気を振り絞って声をかけた。「あの…君、サクラさんだよね?」。サクラは驚いたように顔を上げ、少し微笑んだ。「うん、そうだよ。君は?」。
ユウキは自己紹介を済ませ、ぎこちなく会話を始めた。話すうちに、サクラが抱える孤独と、それ故の脆さに気づいた。ユウキ自身も、家庭環境からくる心の傷を抱えていた。共通の痛みが、二人の距離を急速に縮めていった。
数日後、ユウキはサクラから衝撃的な告白を受ける。「私…リストカットしてるんだ」。サクラは震える声で、過去の自傷行為について語り始めた。それを聞いたユウキは、何も言えなかった。ただ、サクラの手を優しく握りしめた。
その日から、ユウキはサクラにとって、かけがえのない存在になった。サクラの心の支えとなり、自傷行為を止めるよう説得し続けた。ユウキ自身も、サクラの存在に依存していくようになる。二人はいつも一緒に過ごし、お互いの傷を舐め合うように慰め合った。
しかし、二人の関係は次第に歪んでいった。ユウキはサクラ自傷行為を止めることに必死になるあまり、サクラを束縛するようになっていく。一方、サクラユウキへの依存を深め、彼のいない世界を想像できなくなっていた。
ある日、ユウキはサクラに告白した。「サクラが好きだ。ずっと一緒にいたい」。サクラは涙を流しながら、「私も…ユウキが好き」と答えた。しかし、二人の間には、喜びよりも不安が広がっていた。これが恋愛なのか、ただの依存なのか、わからなかった。
二人の関係は、表面的には恋人同士のように見えた。しかし、実際は、お互いの依存心が絡み合った、危険な状態だった。ユウキはサクラ自傷行為を監視し、サクラユウキの言動に一喜一憂した。
ある夜、サクラからユウキに電話がかかってきた。「ユウキ…助けて」。サクラは再び自傷行為に及んでしまったのだ。ユウキは慌ててサクラの家に向かい、彼女を抱きしめた。「もう大丈夫だ。俺がいる」。
しかし、ユウキの言葉は空虚に響いた。二人の依存関係は、すでに限界に達していた。ユウキはサクラ自傷行為を止めることができず、サクラユウキの束縛から逃れることができなかった。
数週間後、ユウキはサクラに別れを告げた。「このままじゃ、二人とも壊れてしまう」。サクラは激しく抵抗したが、ユウキの決意は固かった。別れ際、ユウキはサクラに言った。「依存し合う関係は、決して恋愛じゃない。お互いを傷つけ合うだけだ」。
ユウキはサクラの元を去った。その後、サクラがどうなったのか、ユウキは知らない。ただ、二人が出会ったあの日、雨上がりの昇降口で見たサクラの姿を、ユウキは決して忘れることはなかった。
それから数年後、ユウキは大学生になっていた。心理学を専攻し、過去の経験から、他者を依存させない、健全な人間関係を築くことを目標としていた。
大学の講義で、ユウキは一人の女性と出会う。ミドリミドリは明るく、自立した女性だった。最初は警戒していたユウキだったが、ミドリの飾らない人柄に惹かれていく。
ユウキはミドリに、過去の出来事を打ち明けた。過去の恋愛サクラとの依存関係、そして自傷行為のこと。全てを語ったユウキに、ミドリは優しく微笑みかけた。「辛かったね。でも、もう大丈夫だよ」。
ミドリユウキを依存させることなく、彼を受け入れた。お互いを尊重し、自立した関係を築いていく。ユウキは、過去の傷を乗り越え、新しい一歩を踏み出した。
ある日、ユウキとミドリは街を歩いていた。すると、向こうから一人の女性が歩いてくる。サクラだった。最初は気づかなかったユウキだったが、サクラの姿を見て、息を止めた。
サクラは以前よりも明るく、穏やかな表情をしていた。ユウと目が合うと、微笑んで会釈をした。そして、ユウキの横にいるミドリに向かって、「お幸せに」と囁いた。
サクラの言葉に、ユウは胸がいっぱいになった。過去の依存関係を乗り越え、サクラもまた、新しい人生を歩んでいるのだと確信した。
ユウミドリの手を握りしめ、共に未来へと歩き出した。二人の間には、過去の傷を乗り越えた、確かな絆があった。