Drama
14 to 20 years old
2000 to 5000 words
Japanese
桜が舞い散る4月、高校の入学式の日。僕は隅の席に座り、できるだけ目立たないようにしていた。新しい人間関係への恐怖が、僕の心臓を締め付ける。
中学時代、親友だった優斗との関係は、いつの間にか異常な依存へと変わってしまった。優斗は明るくて人気者だったけれど、どこか脆いところがあって、僕は彼を支えることが自分の役割だと信じていた。
でも、僕の依存は優斗を苦しめていたのかもしれない。些細なことで衝突することが増え、ある日、優斗は僕に「もう疲れた」と言い残して去って行った。それ以来、僕は人を深く信頼することができなくなった。
そんな過去を抱えながら迎えた高校生活。なるべく誰とも関わらないように、僕は数学の問題を解くことに没頭した。数学だけが、僕の心を落ち着かせてくれる唯一のものだった。
放課後、図書室で難しい数学の問題と格闘していると、一人の少女が声をかけてきた。「それ、面白い問題だよね。ちょっと難しいけど…」
彼女の名前は凛。長い黒髪が風に揺れ、吸い込まれそうなほど澄んだ瞳をしている。凛は、まるで春の陽だまりのような温かさを持っていた。
凛は数学が得意で、僕が解けない問題も簡単に解いてみせた。彼女と話していると、時間が経つのを忘れてしまうほどだった。優斗との関係以来、人に心を開くことを恐れていた僕だったが、凛には自然と心惹かれていった。
ある日、凛が僕に言った。「私、数学者になりたいんだ。そのためには、もっとたくさんのことを学ばなきゃいけない。でも、一人じゃ不安で…」
僕は、凛の言葉に強く共感した。僕も、数学の世界で生きていきたいと思っていた。依存や過去のトラウマを抱えながらも、数学だけは、僕を裏切らないと信じている。
僕は、凛に「一緒に頑張ろう」と答えた。その時、僕の中で何かが変わった気がした。再び誰かと深く関わることへの恐怖は依然としてあったけれど、凛となら、きっと大丈夫だと思えた。
それから、僕と凛は毎日一緒に勉強するようになった。数学の問題を解いたり、お互いの夢について語り合ったりするうちに、僕たちの距離は धीरे近づいていった。
ある日、勉強中に凛の手が僕の手に触れた。ほんの一瞬の出来事だったけれど、僕の心臓は激しく鼓動した。これが、いわゆる恋愛という感情なのだろうか。それとも、またしても依存なのだろうか。
優斗との過去が、僕の頭をよぎる。あの時も、僕は優斗に依存することで、自分の存在意義を見出そうとしていたのかもしれない。今、僕は凛に何を求めているのだろうか。
家に帰ると、僕は自室に閉じこもって、カッターナイフを手に取った。不安と焦燥感から、無意識のうちに自傷行為に走ってしまう。リストカットの跡が、僕の過去を物語っていた。
僕は、自分が本当に凛を恋愛対象として見ているのか、それともただ依存しているだけなのか、わからなかった。もし依存だとしたら、また凛を傷つけてしまうかもしれない。僕は、それが何よりも怖かった。
次の日、僕は凛に「少し距離を置きたい」と伝えた。凛は驚いた様子だったけれど、何も言わずに頷いてくれた。彼女の瞳には、悲しみが滲んでいるように見えた。
僕は、凛から距離を置くことで、自分の気持ちを見つめ直そうとした。数学の問題を解いても、以前のように心が落ち着かない。図書館に行っても、凛の姿を探してしまう。
数日後、僕は図書館で凛を見つけた。凛は一人で難しい数学の問題と格闘していた。僕は、そっと凛の隣に座った。
凛は、僕に気づくと、少し驚いた表情を見せた。僕は、勇気を振り絞って凛に言った。「ごめん。やっぱり、君と離れることはできない。僕は、君を依存しているのかもしれない。でも、それだけじゃない。僕は、君のことを…」
言葉に詰まる僕を見て、凛が優しく微笑んだ。「私も、同じだよ。最初は、依存かなって思った。でも、今は違う。私たちは、お互いを必要としているんだと思う。依存じゃなくて、支え合っているんだと思う」
凛の言葉を聞いて、僕は心が軽くなるのを感じた。僕は、一人で抱え込んできた依存や過去のトラウマを、凛と共有することができたのだ。
僕は、凛の手を握りしめた。あの桜の舞い散る入学式の日、僕は新しい人間関係への恐怖に怯えていた。でも、凛という光に出会えたことで、僕は過去を乗り越え、未来へと進むことができる。
それから、僕と凛は、互いを支え合いながら、数学者になるという夢に向かって歩み始めた。困難に立ち向かうたびに、僕たちは互いの存在に勇気づけられた。僕たちの恋愛は、依存から始まったのかもしれない。でも、今は確信している。僕たちの愛は、本物だ。
たまに、過去のトラウマが蘇り、自傷衝動に駆られることもある。でも、そんな時は、凛がそっと僕の手を握り、優しく抱きしめてくれる。彼女の温もりは、僕の心を癒し、再び前を向く力を与えてくれる。
僕は凛と出会い、愛を知った。そして、過去の痛みを受け入れ、未来へと歩む決意をした。僕たちの物語は、まだ始まったばかりだ。