Drama
14 to 20 years old
2000 to 5000 words
Japanese
空気が重い、夕暮れの図書館。数学の難問に頭を抱える悠斗(はると)の肩越しに、一冊の本がそっと差し出された。
声の主は美咲(みさき)だった。長い髪を揺らし、儚げな微笑みを浮かべている。
悠斗はぎこちなく礼を言い、その本を受け取った。それは、難しい数学書ではなく、恋愛小説だった。
「なぜ恋愛小説を?」と聞くと、美咲は少し照れながら、「たまには頭を休ませるのも大事かなって…」と答えた。
悠斗にとって、美咲は特別な存在だった。彼女はいつも悠斗を気遣い、支えてくれた。気づけば、彼女の存在なしでは何もできなくなっていた。依存に近い感情が、悠斗の心の中に深く根を下ろしていた。
数学の世界に没頭することで、現実の辛さから逃れていた悠斗。幼い頃から優秀だった彼は、周囲からの期待に応えようと必死だった。しかし、そのプレッシャーは次第に悠斗を蝕み、誰にも言えない苦しみを抱えるようになっていた。
そんな悠斗を救ったのが、美咲だった。彼女は悠斗の心の痛みに寄り添い、優しく包み込んでくれた。彼女の存在が、悠斗の心の支えとなり、生きる希望となっていた。
ある日、悠斗は美咲を近所のカフェに誘った。そこで、悠斗は初めて自分の気持ちを美咲に伝えようと決意した。
カフェに着き、二人は向かい合って座った。悠斗は緊張で手が震え、なかなか言葉が出てこなかった。
悠斗が意を決して口を開こうとした瞬間、美咲が口を挟んだ。
「悠斗、無理しないで。何か辛いことがあったら、いつでも私に言ってね」
その言葉に、悠斗は言葉を失った。彼女はすべてを知っているようだった。そして、その優しさが、悠斗の心をさらに苦しめた。
悠斗は美咲に依存している。それは分かっていた。でも、彼女への気持ちは、依存だけではない気がした。これは恋愛なのだろうか?それとも、ただの心の拠り所を求めているだけなのだろうか?
依存と恋愛の境界線が分からず、悠斗は混乱していた。
その夜、悠斗は自分の部屋で、カッターナイフを手に取った。自傷行為は、悠斗にとって、唯一の心の安定剤だった。痛みを感じることで、現実の苦しみを忘れようとしていた。
カッターナイフを腕に押し当てようとした瞬間、悠斗の携帯電話が鳴った。画面には美咲の名前が表示されていた。
美咲の声は震えていた。何か異変を感じたのだろうか。
悠斗は慌ててカッターナイフを隠し、「大丈夫だよ、美咲。どうしたの?」と答えた。
「…悠斗の声が、なんだかいつもと違う気がして… 心配で…」
悠斗は美咲に嘘をつくことができなかった。すべてを打ち明ける覚悟を決めた。
悠斗は自分の抱える苦しみ、美咲への依存、そして自傷行為について、すべてを美咲に打ち明けた。
電話の向こうで、美咲は静かに聞いていた。そして、最後にこう言った。
「悠斗、一人で抱え込まないで。私はいつでも悠斗のそばにいる。一緒に乗り越えよう」
その言葉に、悠斗は涙が止まらなかった。初めて誰かに自分の弱さをさらけ出し、受け入れてもらえた気がした。
しかし、問題はそう簡単には解決しなかった。翌日、悠斗は美咲から距離を置かれた。
美咲「ごめんね、悠斗。しばらく会わない方がいいと思う。」
美咲「あなたの依存が、私を苦しめているの。このままだと、共倒れになってしまう。」
悠斗は目の前が真っ暗になった。彼女を失うことは、悠斗にとって世界の終わりを意味していた。
悠斗は美咲に何度も謝り、依存を克服することを約束した。しかし、美咲の決意は固かった。
数日後、悠斗は精神科医の診察を受けた。悠斗は自分の依存症と向き合い、治療を受けることを決意した。
治療は困難を極めた。悠斗は何度も挫折しそうになったが、美咲の言葉を胸に、必死に耐え抜いた。
そして、数か月後。悠斗は少しずつ、自分の力で立ち上がれるようになっていった。彼は数学の研究に再び打ち込み、新しい目標を見つけた。
ある日、悠斗は美咲に手紙を書いた。手紙には、依存を克服したこと、そして、感謝の気持ちが綴られていた。
「美咲のおかげで、僕は変わることができた。本当にありがとう」
手紙を書き終えた悠斗は、図書館へ向かった。夕暮れの図書館は、あの時と同じように、静かで穏やかな空気に包まれていた。
すると、書架の間から、懐かしい姿が現れた。美咲だった。
悠斗は嬉しさのあまり、言葉を失った。ただ、微笑むことしかできなかった。
悠斗は美咲の言葉に、胸が熱くなった。そして、自分の気持ちが、依存ではなく、恋愛だったことに気づいた。
夕焼けが図書館の窓から差し込み、二人の顔を照らした。
悠斗はそっと美咲の手を握った。彼女もまた、優しく微笑み返した。
二人は、寄り添いながら、ゆっくりと図書館を後にした。空には、美しい夕焼けが広がっていた。
悠斗は数学者になるという夢に向かって、そして、美咲と共に、新たな人生を歩み始める決意を固めた。
彼らは、過去の傷を乗り越え、真の恋愛を見つけることができたのだ。虚数の世界から抜け出し、現実の世界で、幸せを掴み取ったのだった。