Drama
14 to 20 years old
2000 to 5000 words
Japanese
夕焼けに染まる教室で、僕は窓の外を眺めていた。数式が頭の中を駆け巡り、まるで迷路のようだ。僕は数学が好きだった。純粋な論理と美しさに魅せられていた。
けれど、数学はいつも僕を苦しめた。完璧な答えを求めるあまり、自分自身を追い詰めてしまう。
特に最近はひどかった。まるで蟻地獄のように、出口の見えない苦しみの螺旋階段に堕ちていくようだった。
咲良は、僕にとって太陽のような存在だった。明るくて優しくて、誰からも好かれる。僕はそんな彼女に、一方的に依存していた。
出会いは高校に入学してすぐだった。入学式の後、人混みの中で迷子になっていた僕に、咲良は笑顔で声をかけてくれた。
その時の笑顔が、まるで魔法のように、僕の心を奪った。
それからというもの、僕は咲良の傍にいることがすべてだった。咲良の笑顔を見るために、僕は必死で努力した。
テストで良い点を取ったり、部活動で活躍したり。すべては、咲良に認められたいから。
だけど、それは同時に、僕を自傷行為へと駆り立てた。成績が少しでも悪いと、自分が価値のない人間のように思えてしまう。
僕はリストカットを繰り返した。カッターの刃を腕に当てる瞬間、一瞬だけ苦しみから解放されるような気がした。
でも、それは錯覚だった。心の傷は、いつまでたっても癒えなかった。
ある日、僕は咲良に数学の勉強を教えていた。咲良は数学が苦手で、いつも僕に助けを求めていた。
咲良はペンを握りしめ、困った顔で僕を見つめた。僕は丁寧に解説した。咲良は真剣な表情で僕の話を聞いてくれた。
教えるうちに、僕は咲良の依存にも気づいていた。咲良は僕に頼ることで、自分の不安を紛らわせているようだった。
(これは…依存なのだろうか?それとも、もしかして…恋愛…?)
初めて会った日から、僕は常に自問自答を繰り返していた。彼女が僕に求めるのは、友情なのか、それとも…
授業が終わり、咲良と二人で学校からの帰り道を歩いていた。いつものように、他愛もない話で盛り上がっていた。
咲良が突然そう言った。僕は驚いて言葉を失った。心臓が激しく鼓動した。
僕はやっとの思いでそう答えた。その日の夜、僕は眠れなかった。映画デートのことを考えると、胸が高鳴って仕方がなかった。
デート当日、僕は待ち合わせ場所に早く着きすぎた。咲良は少し遅れてやってきた。白いワンピースを着て、とても綺麗だった。
咲良はそう言って、僕に微笑みかけた。僕は咲良の笑顔に、再び心を奪われた。
映画を見ている間、僕は緊張していた。咲良が隣にいるだけで、何も手につかなかった。
映画が終わって、僕たちは喫茶店に入った。コーヒーを飲みながら、映画の話をした。
咲良はそう言って、涙ぐんだ。僕は咲良の涙を見て、胸が締め付けられるような気がした。
その時、僕は咲良に対する自分の気持ちに気づいた。僕は、咲良のことを本当に愛していた。
だけど、同時に、咲良への依存が、自分自身を壊していることも理解していた。この恋愛は、健全ではないのかもしれない。
帰り道、僕は咲良に自分の気持ちを打ち明けることにした。勇気を振り絞って、言葉を口にした。
「ありがとう、いつも私のことを助けてくれて。あなたがいなかったら、私、どうなってたかわからない」
咲良はそう言って、僕の手を握った。その瞬間、僕は言葉を失った。
咲良の言葉は、僕の胸に突き刺さった。僕は、咲良の依存から抜け出すことができないと悟った。
僕はただ頷くことしかできなかった。その夜、僕は再び自傷行為に及んだ。カッターの刃を握りしめ、何度も何度も腕に当てた。
数日後、咲良は急に学校に来なくなった。僕は心配になり、咲良の家を訪ねた。
僕は愕然とした。一体何が起こったのか、理解できなかった。
咲良の母親は、涙ながらに咲良の状態を説明した。咲良は、ずっと精神的に不安定だったらしい。僕への依存も、その症状の一つだった。
僕は自分の無力さを痛感した。咲良を救えなかっただけでなく、むしろ傷つけていたのかもしれない。
僕は咲良の入院中、毎日お見舞いに行った。咲良は最初は僕を拒絶していたが、次第に心を開いてくれるようになった。
僕は咲良に、自分の依存と自傷行為について告白した。咲良は驚いていたが、僕の話を真剣に聞いてくれた。
「ごめんね…私のせいで、あなたも苦しめてしまって」
咲良はそう言って、泣き出した。僕は咲良を抱きしめた。
「違うよ。僕が勝手に依存してただけだ。君のせいじゃない」
僕は咲良に、これからは自分の足で立って、自分の人生を歩んでいくことを約束した。咲良もまた、僕に同じことを約束してくれた。
退院後、咲良はカウンセリングを受けるようになった。僕もまた、自傷行為をやめるために、専門家の助けを借りることにした。
僕たちは少しずつ、互いに依存しない、健全な関係を築き始めた。それは、まるで複雑な数学の問題を解くように、根気のいる作業だった。
一年後、僕たちは別々の大学に進学した。物理的な距離は離れてしまったけれど、僕たちの心は繋がっていた。
たまに電話やメールで連絡を取り合い、近況を報告し合った。そして、互いの成長を喜び合った。
数年後、僕は数学者になるという夢を叶えた。咲良もまた、自分のやりたいことを見つけ、充実した日々を送っていた。
あの頃の恋愛は、未完成の数学の証明のように、永遠に答えが見つからないのかもしれない。でも、その痛みこそが、僕たちを成長させてくれたのだと信じている。
そして、僕たちは、それぞれの虚数解を見つけ、自分自身の真実を解き放つことができたのだ。