闇動画の向こう側

Drama 14 to 20 years old 2000 to 5000 words Japanese

Story Content

冷たい風が吹き抜ける夜、の気配が色濃く漂う部屋で、私は妹、死んだ妹の写真を握りしめていた。桜の咲き始めた春の日、あの子は小さな命を自ら絶ったのだ。理由は、陰湿ないじめ
妹のユキは、明るくて誰からも好かれる子だった。なのに、あんな残酷な形で…ユキが遺した日記には、いじめを行った者の名前が書かれていた。憎しみが、私の心を黒く染め上げていく。
(復讐…。)
私が生きている意味は、もうそれしかない。
最初は、ユキをいじめた連中を直接責め立てようと思った。でも、それではユキは戻ってこない。もっと深い絶望を、あいつらに与えてやりたい。
そんなことを考えていたある日、インターネットの掲示板で、ある噂を目にした。『見たら必ず鬱になる、そして帰ってこなくなる動画投稿チャンネルがある』というのだ。
半信半疑で調べてみると、それは都市伝説めいた存在だった。チャンネル名は伏せられているが、そこで働くことになった者は精神を病み、消息を絶つという。
(もし…もし、本当にそんなチャンネルがあるのなら…)
私は、復讐のために、そのチャンネルの従業員になることを決意した。あいつらを、絶望の淵に突き落とすために。
数日後、私は求人広告に掲載されていた連絡先に電話をかけた。予想に反して、丁寧な女性の声が聞こえてきた。
「はい、闇動画チャンネル『エクリプス』採用担当のサオリです。応募ありがとうございます。〇〇様ですね。面接の日程を決めたいのですが…」
サオリと名乗る女性は、場所と時間を告げ、電話を切った。
面接当日。私は指定された場所へ向かった。それは、都心から離れた古い雑居ビルだった。
薄暗い階段を上がり、突き当たりの扉を開けると、意外にも中は明るく、整然としたオフィスが広がっていた。若い男女が数人、パソコンに向かって作業をしている。
奥の部屋から、サオリが現れた。彼女は、すらりとした長身で、知的な雰囲気を漂わせる女性だった。しかし、その瞳には、どこか空虚な光が宿っていた。
「よく来てくださいました。私がサオリです。どうぞ、こちらへ」
彼女に案内された部屋は、簡素な応接室だった。私たちは向かい合って座り、面接が始まった。
「〇〇様は、なぜエクリプスで働きたいと思ったのですか?」
私は、事前に用意していた言葉を並べた。「私は、人を絶望させる表現に興味があります。このチャンネルで、自分の才能を試してみたいと思いました」
サオリは、私の目をじっと見つめた。「あなたは、に染まる覚悟がありますか?ここで働くことは、精神を蝕むことと隣り合わせです」
「覚悟はできています」
私の言葉に、サオリは小さく笑った。「よろしい。あなたは明日から研修です。研修内容は…見てのお楽しみです」
こうして、私は闇動画チャンネル『エクリプス』の従業員になった。
研修初日。サオリは、私にチャンネルのコンテンツを見せた。それは、人間の悪意憎悪絶望をこれでもかとばかりに表現した、おぞましいものだった。
暴力、差別裏切り嫉妬…人間のの感情が、これほどまでに濃縮されているのかと、私は戦慄した。
「これが、エクリプスコンテンツです。あなたは、これからこのような動画を作る側に回ることになります」
サオリは、淡々と説明した。「視聴者は、これらの動画を見て、心をに染め、現実世界に絶望する。そして、二度と帰ってこなくなるのです」
私は、吐き気を堪えながら、コンテンツを見続けた。しかし、心の奥底では、どこか興奮している自分がいた。復讐のためなら、これくらいのに染まっても構わない。
研修期間中、私は様々な業務を任された。企画立案、撮影、編集、広報…すべてが、人間のの感情を煽るためのものだった。
そして、数週間後。サオリは私に、新しい役割を与えた。
「あなたは今日から、アイドルとして活動してもらいます」
アイドル…ですか?」
私は、アイドルという言葉に戸惑いを隠せなかった。私が目指しているのは、復讐だ。なぜ、私がアイドルにならなければならないのか?
エクリプスは、新しい戦略を打ち出すことにしました。それは、視聴者の心に、より深く、を刻み込むための戦略です」
サオリは、不気味な笑みを浮かべた。「あなたは、アイドルブラック・リリー』として、動画出演し、視聴者を魅了し、絶望の淵に突き落とすのです」
私は、サオリの言葉に戦慄した。自分が、とんでもない場所に足を踏み入れてしまったことを悟った。
しかし、今さら引き返すことはできない。私は、復讐のために、アイドルになることを決意した。
私は、ブラック・リリーとしてデビューした。ゴスロリ風の衣装を身にまとい、無表情で歌い、踊る。私の動画を見た視聴者は、美しさ狂気ギャップ魅了され、次第に精神を病んでいく。
私が歌うのは、希望を否定する歌。人間醜さ残酷さを暴露する歌。私の歌声は、視聴者の心の奥底にあるを呼び覚ます。
チャンネルの登録者数は、爆発的に増加した。私の人気も、うなぎ上りに上がっていった。しかし、私は決して笑わなかった。心の中は、常に冷たく虚無に満ちていた。
そして、ついに、ユキをいじめた連中の一人が、私の動画を見た。SNSで、私に対する誹謗中傷を繰り返していたそいつは、ブラック・リリーハマってしまったのだ。
そいつは、毎日のように私の動画を見続け、コメントを送ってきた。最初は中傷だったコメントは、次第に賞賛へと変わっていった。そして、ついには…
ブラック・リリー様、どうか僕を救ってください』
私は、そいつのコメントを見て、冷笑した。ついに、復讐の時が来たのだ。
私は、そいつにダイレクトメッセージを送った。『明日、〇〇公園に来てください。あなたを救ってあげます』
翌日、私は指定された公園に向かった。そこには、憔悴しきった様子のユキをいじめた生徒が待っていた。
ブラック・リリー様…!本当に来てくださったんですね!」
私は、そいつに近づき、囁いた。「あなたは、を犯した。ユキ殺したのだ」
そいつは、震えながら言った。「殺してなんかいません!僕は、ただ…ちょっとからかっただけなんです…!」
をつくな。お前のせいで、ユキ死んだんだ」
私は、そいつの腕をつかみ、無理やり引きずって行った。向かう先は、ユキが首を吊った場所…あの桜の木の下だ。
公園の一角にある、ひっそりとした場所。そこには、まだの花びらが残っていた。私は、ユキをいじめた生徒を、桜の木に押し付けた。
「ここで、ユキ死んだ。お前も、同じ目に遭え」
私は、事前に用意しておいたロープを、桜の枝に投げかけ、そいつの首にかけた。そいつは、必死に抵抗したが、私の力には敵わなかった。
「やめてください!ブラック・リリー様!助けてください!」
私は、そいつの言葉を無視して、ロープを強く引いた。そいつは、もがき苦しみ、やがて、動かなくなった。
私は、冷たい目でそいつを見下ろした。私の心には、何も残っていなかった。ただ、虚無だけが広がっていた。
ユキの復讐は、終わった。しかし、私の心は、癒されることはなかった。私は、アイドルとして、これからも歌い続けるだろう。人々の心を絶望に染めながら。
私は、闇のお姉さんとして。サイコパスとして。