闇色の偶像(アイドル)

Drama 14 to 20 years old 2000 to 5000 words Japanese

Story Content

桜舞い散る春、高校二年生の私は、平凡な日常を送っていた。少なくとも、あの日の朝までは。
「お姉ちゃん、おはよう!」 朝食のテーブルに向かうと、妹のが満面の笑みで私を迎えてくれた。彼女の笑顔を見るたびに、私は心が温かくなった。
「おはよう、舞。今日も元気だね」 私は微笑み返し、トーストを口に運んだ。
舞は、中学三年生。明るくて活発で、誰からも愛される妹だった。将来はアイドルになりたいと夢見て、毎日歌やダンスの練習に励んでいた。
しかし、その夢は、残酷にも突然終わりを迎えた。
あの日、学校から帰宅した私は、異様な光景を目にした。
舞の部屋のドアが開いており、中からは微かな光が漏れていた。不安に駆られながらドアを開けると、そこにいたのは、首を吊って絶命した舞の姿だった。
私は、目の前の光景が信じられなかった。舞が、なぜこんなことを…?
警察の捜査の結果、舞は学校でいじめを受けていたことが判明した。同級生からの執拗な嫌がらせに耐えかねて、自ら命を絶ってしまったのだ。
私は、深い悲しみと怒りに打ちひしがれた。舞をに追いやった加害者たちを、決して許すことはできない。
葬儀の後、私は舞の遺品整理を始めた。机の引き出しを開けると、一枚のメモが出てきた。
『ごめんね、お姉ちゃん。もう、我慢できない。』
その文字を見た瞬間、私の心は張り裂けそうになった。
舞の後、私は人が変わったように、復讐心に囚われるようになった。
加害者たちを、同じ苦しみを味わわせたい。舞が感じた絶望を、そっくりそのまま味わわせたい。
私は、加害者たちの素性を調べ上げ、復讐の計画を練り始めた。
そんなある日、私はインターネットで奇妙な動画投稿チャンネルの噂を目にした。
そのチャンネルは『動画投稿チャンネル』と呼ばれ、そこには、見たら確実に鬱になり、最悪の場合、舞のように首を吊ってしまうほど絶望的な動画が投稿されているという。
しかも、そのチャンネルの動画投稿者は、以前アイドルをやっていた女性で「闇のお姉さん」というハンドルネームを使っているという。
私は、そのチャンネルに興味を持った。そこには、私が探している答えがあるかもしれない。
私は、『動画投稿チャンネル』について徹底的に調べた。そのチャンネルは、表向きは普通の動画投稿サイトだが、裏では、人間のを暴き出すようなコンテンツを配信していることが分かった。
私は決心した。このチャンネルの従業員になって、動画投稿チャンネルの内情を探り、舞の復讐に役立てよう。
私は、動画投稿チャンネルの求人情報を見つけ、履歴書を送った。すると、すぐに面接の連絡が来た。
面接当日、私は緊張しながら指定された場所に向かった。そこは、都心の一角にある雑居ビルの地下室だった。
部屋の中は薄暗く、異様な雰囲気が漂っていた。奥には、一人の女性が椅子に座っていた。彼女こそが、『のお姉さん』だった。
「あなたが、面接を受けに来た人?私は、のお姉さんよ」 のお姉さんは、冷たい視線で私を見つめた。
「はい、〇〇です。よろしくお願いいたします」 私は、深呼吸をして答えた。
「あなたは、なぜこの仕事に興味を持ったの?」 のお姉さんは、単刀直入に尋ねた。
「私は、人間のに興味があります。そして、誰かを絶望させる動画を作りたいと思っています」 私は、嘘偽りない気持ちを伝えた。
闇のお姉さんは、私の目をじっと見つめた。しばらく沈黙が続いた後、彼女はゆっくりと口を開いた。
「分かったわ。あなたを採用するわ。ただし、ここでは、普通の人間として生きてはいけない。あなたは今日から『アイドル』になるのよ」
私は、のお姉さんの言葉に驚いた。しかし、同時に、復讐への覚悟を新たにした。
こうして、私は『動画投稿チャンネル』の従業員、『アイドル』としての生活をスタートさせた。
アイドル』としての私の仕事は、動画に出演することだけではなかった。脚本の作成、編集作業、そして、動画に登場する人物の選定など、幅広い業務をこなさなければならなかった。
私は、動画を通じて、人間の心のを暴き出した。嫉妬、憎しみ、裏切り、欲望…。
動画を見た人々は、にたくなるほどの絶望を感じ、心を病んでいった。
私は、のお姉さんの指導のもと、徐々にサイコパスとしての才能を開花させていった。人の不幸を喜ぶようになり、苦しむ姿を見ることに快感を覚えるようになった。
気がつけば、私は舞の復讐のことなど、ほとんど忘れていた。私は、アイドルとして生きることに、完全に染まってしまっていた。
しかし、そんな私の生活に、ある日、転機が訪れた。
いつものように動画の撮影をしていると、のお姉さんが、私に近づいてきた。
「〇〇、あなたに、特別な仕事を任せたい」 のお姉さんは、意味深な笑みを浮かべた。
「特別な仕事…ですか?」 私は、警戒しながら尋ねた。
「そう。それは…舞をいじめ加害者たちを、動画に出演させることよ」
私は、のお姉さんの言葉に衝撃を受けた。舞の加害者たちを…?
「あなたは、彼らを動画に出演させ、舞が受けた苦しみを、そっくりそのまま味あわせるのよ」 のお姉さんは、さらに続けた。
私は、復讐の機会が訪れたことに喜びを感じた。しかし、同時に、アイドルとして生きる自分に、言いようのない虚しさを感じた。
私は、舞の加害者たちを動画に出演させることを決意した。
加害者たちは、動画の中で、過去の罪を暴露され、社会的に抹殺された。彼らは、舞が受けた苦しみを、何倍にもして味わうことになった。
復讐を終えた私は、アイドルとしての活動を辞めた。そして、動画投稿チャンネルを後にした。
私は、舞の墓前に立ち、復讐を終えたことを報告した。しかし、私の心は、晴れることはなかった。
私は、アイドルとして生きる中で、大切な何かを失ってしまった。そして、それは二度と取り戻せないものだと、私は悟った。
舞、ごめんね。私は、あなたのために復讐したつもりだった。でも、私は、あなたをに追いやった加害者たちと同じに染まってしまった。
私は、舞のを無駄にしてしまった。私は、もう二度と、あなたのような悲しみを繰り返さない。
私は、動画投稿を通して自分の犯した罪を告白し、そして過去と向き合うことを決めた。もちろん動画のコメント欄はに包まれ多くの批判もあったが、妹のために、私は前に進むしかなかった。
春はまた巡ってくる。桜は今年も咲き、そして散るだろう。妹の居ない世界で、私はそれでも生きていかなければならない。