Drama
14 to 20 years old
2000 to 5000 words
Japanese
私は鏡の中の自分を見つめていた。そこに映るのは、かつて明るい笑顔を見せていた私ではない。ただ、深い闇を抱えた人形のような顔だった。妹の死から、私の時間は止まってしまった。
花梨…私のたった一人の妹。あの子は、いつも私を頼りにしてくれていた。成績優秀で、誰にでも優しくて…そんな花梨が、なぜ…。
あの日、私が学校から帰ると、花梨は部屋で首を吊っていた。机の上には、震える字で書かれた遺書があった。「もう、耐えられない…」
遺書には、いじめの詳細が書かれていた。クラスメイトからの陰湿な嫌がらせ、無視、そして暴力…私は、怒りで全身が震えた。
犯人たちを絶対に許さない。私は心に誓った。花梨が受けた苦しみと同じ苦しみを、いや、それ以上の苦しみを味あわせてやる。
復讐…それだけが、今の私の生きる意味だった。私は、花梨を苦しめた加害者たちを一人ずつ調べ始めた。
加害者たちの名前、住所、家族構成…全てを洗い出し、復讐計画を練った。彼らの人生を破壊する。それが私の使命だ。
そんな時、ネットの掲示板で奇妙な噂を目にした。闇の動画投稿チャンネル、『ブラック・パンドラ』。そこには、見ると精神的に鬱になり、自死を選ぶ者が続出するという禁断の動画がアップされているらしい。
『ブラック・パンドラ』は、ただのショック動画ではなかった。人間の心の奥底にある闇を抉り出し、絶望の淵に突き落とす、そんな力があるらしい。
運営者は謎に包まれており、正体を知る者は誰もいない。しかし、チャンネル登録者は日に日に増え続けていた。
私は思った。この闇の動画投稿チャンネルこそ、私の復讐に使えるのではないか。加害者たちを精神的に追い詰め、自死に追い込むことができるかもしれない。
私は、『ブラック・パンドラ』の従業員募集を見つけ、すぐに応募した。採用されるかどうかは分からないが、他に方法はない。
数日後、私は『ブラック・パンドラ』の面接に呼ばれた。場所は、街外れの古い倉庫だった。
倉庫の中は薄暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。奥には、黒いマスクを被った男が座っていた。その男が、『ブラック・パンドラ』の運営者、通称『マスター』だった。
「君が…今回の応募者か。名前は?」マスターの声は機械のように低く、感情が感じられなかった。
「明里か…君の過去は調べさせてもらった。妹をいじめで亡くし、復讐を誓っている…それで、ここに来たのか?」
私は驚いた。マスターは、私の全てを知っていたのだ。「…はい。復讐のために、力が必要なんです。」
「力か…いいだろう。君にその力を与えてやる。ただし、代償が必要だ。」マスターは不気味な笑みを浮かべた。
「ああ。君は、これから『ブラック・パンドラ』の一員として、働くことになる。そして、この闇に染まるのだ。」
私は覚悟を決めた。「…分かりました。どんなことでもします。」
こうして、私は闇の動画投稿チャンネル、『ブラック・パンドラ』の従業員となった。与えられた役職は、『アイドル』。…信じられない気持ちだった。
「君には、『闇のお姉さん』として、動画に出演してもらう。」マスターは説明した。「視聴者を魅了し、闇に引きずり込む役割だ。」
私は、花梨を死に追いやった加害者たちを死なせるため、闇のお姉さんとして、サイコパスのような自分を演じることに躊躇いはなかった。
最初は戸惑った。可愛い衣装を着せられ、媚びるような笑顔を作らされた。でも、それは表面だけ。心の奥底では、復讐の炎が燃え盛っていた。
私は、動画投稿の企画、撮影、編集…全てに関わった。視聴者をどのように絶望させるか、どうすれば死に追いやることができるか…そればかりを考えていた。
そして、ついに、復讐の時が来た。私は、加害者たちをターゲットにした動画を制作し、アップロードした。動画は瞬く間に拡散され、加害者たちは社会的に死んだ。
しかし、それだけでは終わらない。私は、加害者たちの個人情報をネット上に晒し、炎上させた。彼らは、世間から徹底的に非難され、居場所を失った。
私は、加害者たちが追い詰められていく様子を、モニター越しに見ていた。最初は快感だった。しかし、時間が経つにつれて、心が空っぽになっていった。
本当に、これで良かったのだろうか?花梨は、こんな復讐を望んでいたのだろうか?私は、自分のしていることが、正しいのか分からなくなってしまった。
私は、深く後悔した。復讐は、何も生まない。ただ、闇が広がるだけだ。
しかし、もう遅かった。『ブラック・パンドラ』は、私にとって、逃げ出すことのできない闇になっていたのだから。
『闇のお姉さん』という仮面を被った私は、もう、普通の女の子には戻れない。私は、闇の中で生き続けるしかないのだ。
そして、私は今も『ブラック・パンドラ』で働き続けている。今日も、誰かを絶望させ、死に追いやる動画を制作しながら…。